もう恋心なんて忘れた (ページ29)

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好きだと分かったのは、小さいきっかけだった。教科書を返してもらった後、後半は数学の授業は無いのに数学の教科書を盗み見していた。

彼がめくったページを指でなぞる。隅から隅まで人差し指を踊らせた。すると微かな窪みに気がつく。何書いているか分からないため、奇跡的に入っていた見た目が古くどこかしなっている鉛筆でその部分を塗る。

黒く染めるとそこには明らかに“好き”と書かれていた。これは何を意図しているのか、誰に向けてなのか分からないが裏で期待している自分がいた。

そんな俺は、とても惨めで見苦しいかもしれない。けれど感情というものは、人間がどれほど抗っても無くすことも出来ないし、コントロールする事も出来ない。

その事は一番俺が分かっている。どうしても無くしたいなら頭を適当にぶん殴ればいけるんじゃないか？けれど自分は、逆に頭を撫でたら戻ってきてほしい感情がある。

それは“理性”だ。

小さい頃から自分の身体は弱かった。病気にもよくかかるし、倒れたことは何度かある。その度に友達にあしらわれ、いつからか統合失調症になってしまった。

人間に大切な理性を失ってしまった俺は、いわゆる性欲や睡眠力、あらゆる欲を抑えきれい事になる。症状が酷かったときは部屋に引き籠もり、安定したときはちらっと学校を覗きに行くだけなっていた。いわゆる不登校児という奴だ。

友人たちも俺に距離を置くようになって、いつからか独りぼっち。唯一飢えていた俺の希望の光は、隣に住んでいた可愛らしい同い年の隣人だった。

『おはよう』とただ挨拶されるだけで胸は高鳴って、症状が激しい時は押し倒しそうになるぐらいだ。だから、悪化しているときは極力会わないように頑張っていた健気な自分を今でも覚えている。

大人になっていく連れ、その病気は治っていったが君の前ではどうしても本当の事を言ってしまうらしい。そこで自分は、意外とドSなんだと知った。

彼が俺に行為を寄せていると知ったのは、自然とその書き残された言葉を見つけたのは嘘になる。けれど書かれていたのは嘘ではない。

キスしたいと言われたら嘘になる。こんな気持ちのはっきりしないあやふやな関係の時にこんな事はしたくない。きちんと段階を踏んでからしたいと思っている。

けれどやはり、裏の自分は言うことを聞いてくれないらしい。そのまま君のその柔らかい唇が重なれるなら嬉しいけどそれと同時に恐怖心もある。

今殴るか、行動に移すかどっちかにしてほしい。欲に溺れる俺を救ってくれるのか。更に溺愛させるのかの判断は北山にしてほしいな。