サマーバケーション (ページ8)

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ホールヘ戻ると、
そろそろ終わると言っていた店長はまだキッチンで何かしているようだった。

『お疲れさまです』

「おう、明日の仕込みしちゃうからもう上がりな」

『えっ』

一緒に帰ってくれるんじゃなかったの？

上がるタイミングが一緒になると、店長は決まって「駅まで送る？」と声をかけてくれる。
私も金指も、ここのバイトのみんなはいつもそれを遠慮して断っていた。

でも今日こそはお言葉に甘えて、
そこが最後のチャンスだと思っていたのに…。

「どうした？」

返事もせず突っ立っている私を気に掛けて、店長はそう言った。
目線は、手元に注いだまま。

ざくざくとテンポ良くチョコレートを刻む音。

ガトーショコラかな。

優しく丁寧で、それでいてスマート。
店長の手の動きは、いつまでも見ていられる。

料理って不思議だ。
ただの粉を混ぜたり焼いたりするだけで、あんなにも可愛く美味しいものに生まれ変わるんだから。

「お疲れ様です。
あれ、店長まだ残るんすか」

ジャケットを羽織りながら出てきた金指と目が合う。

まだ誘っていないのか。そんな呆れたような目。

「なんだ？2人して。帰んないの？」

今度は小麦粉をふるいにかけながら。

『いや、えーっと』

"水族館"、それさえ言ってしまえれば。

『あ、あの…』

手に力をこめ、今世紀最大の勇気を振り絞って、言葉を発しようとしたそのとき。

「A」

小声で私を呼んだ金指の方に目を向ける。

『えっ』

『あーーー！！！』

「どした！？」