INNOCENT DAYS ３

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「そ、そんなんじゃないし…///」



ついさっきまで、寝起きの子犬みたいにトロンとしてたのに、気付けばいつの間にか“男”の顔して私を見てククク…って笑ってる。


最近黒く染めた短髪が、何だかその男らしさを倍増させていて、どうしていいのかわからなくなって思わず視線を逸らす。




「……そろそろ、食後のコーヒー淹れるね。」


恥ずかしさをごまかす様に、席を立つ。


キッチンへ向かおうとした私を、急に高嗣の長い腕が引き留めるから、、、引っ張られてバランスを失って、そのまま倒れ込む様に高嗣のもとに抱き寄せられる。



「………………な、なに///？」



私の耳元で、フって低く小さく笑う声。


感じる吐息。



「だから、Aちゃん可愛すぎ。」


「………////。」



上昇する心拍数。



「コーヒー、、、淹れないと……」




柔らかいそのアヒル唇が、そっと私の頬に口付ける。


きっと一瞬のことなのに、時間が止まったみたいに感じる。




高嗣からもらう小さな幸せがいくつも重なり合って、私の毎日に彩りを与えてくれる。






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出場を決めたコンクールは、私の様に音楽を仕事にしてるセミプロでも参加できる部門がある。



決して規模は大きくはないけれど、本選のファイナリストまで進むと演奏会への参加があったり、優勝者はオーケストラとの共演が出来たりもする。



だから毎年参加者のレベルもそれなりで、まずは初夏に行われる予選会突破に向けて課題曲のレッスンに励む毎日。



大変だけど、コンクールに参加することで目標を持ってピアノに向き合うことが出来ているし、忘れかけていた向上心が芽生えているのも感じてる。



予選は、何曲かある課題曲の中から1曲を選んで弾く。



その中には、私の好きなショパンの曲もあった。



甘やかで繊細、その甘美なメロディが子供の頃から好きで、よく好んで弾くことが多かった作曲家。



でも木崎さんが選んだのは、その「ピアノの詩人」ショパンとは対照的な「ピアノの魔術師」とも呼ばれたリストの曲。



技巧派の激しい難曲が多い作曲家で、もちろん高い技術力も求められる。



自信たっぷりに「私の演奏を聞きなさい！」位の気持ちを持たなきゃ弾きこなせない様な曲で、私には無理…って思ったのに。



「それが、Aちゃんに一番足りないところだろ？弾く前から諦めてるからダメなんだ。」って言われた。





私の演奏に足りないもの………。





頑張れるかな？



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