INNOCENT DAYS ３

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6月。



数日前に梅雨入りして、今日も朝から蒸し暑さを感じる様なお天気。


カーテンを開けると広がるグレーの空。




スマホをタップして、ライブのため地方に行ってる高嗣から昨夜届いたメッセージをまた開く。


『がんばれ〜！』の言葉だけで、どんよりとした空に負けそうな心が元気になれる。





今日はピアノコンクールの予選会。


久しぶりに味わう、この緊張感。




「今の感じを忘れない事。」


昨日、最後のレッスンの時に木崎さんが言ってくれた言葉を思い出す。


「もともと持ってた繊細さに力強さが加わって、表現力もアップしてる。あとはとにかく、自分に自信をもって！」…そう言われた。





高嗣からのメッセージ画面を閉じる。


何だか、頑張れそうな気がしてる。







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会場に入って身支度を済ませる。


3日間に渡って行われた予選会の、今日が最終日。


各部門とも、結果は今日発表される。








ドレスの胸元。


高嗣からプレゼントしてもらったネックレスに手を当てて、大きく深呼吸する。




肩の力が、すーっと抜けた。



いよいよ出番。






この数か月、何度も心が折れそうになりながら向き合ったリストの超絶技巧曲。


この曲を弾きこなすことは、自分への挑戦でもあった。


今までの自分に負けたくなかった。





親指で紡いでいく旋律。


オクターブの連打。


細い旋律から始まって、終盤にかけて猛烈な音の厚みを帯びてドラマを完結させる…教会の鐘をイメージした、少し物悲しくてドラマティックな曲。


さっきまでの緊張感が、自分の中で力に変わってくのを感じる。



楽しい。気持ちいい。



ピアノが大好きだった子供の頃を思い出す。


これまでの悲しかったことも、辛かったことも…全部メロディーになって消えてく。


最後の音符を弾き終えた時、今までに感じたことのなかった充足感があった。





たくさんの拍手。


込み上げてくる満ち足りた気持ち。


やっぱりピアノが好きだって思えた。







「良かったよ！」


「最高だった！」



演奏を終えた私に、応援に来てくれてたちいちゃんや音大時代の仲間達が声を掛けてくれた。



「Aのピアノ、何だか変わった！すごく強くて、なのに美しくて…………感動したよ。」



ちいちゃんが涙目になりながら、そう伝えてくれた。









そして、、、








審査の結果、無事予選を通過し………私はファイナリストの6人に選ばれた。






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