愛しい君に降りそそぐ

千日紅 1 ページ30

F．(社会人パロ)




「ごめん、浮気した」



毎週金曜日、仕事終わりに恋人である宏光の家を訪れ、夕飯を支度し彼の帰りを待つ。

お互い仕事が忙しいけれど、空いた時間はお互いのために使った。

彼は2歳年上で大人で、年下だからなんて思われなくなくてわがままだって一度も言ったことはない。

それほど彼に尽くしてきた。


だけど、それだけでは足りなかったようだ。

彼にとってやはり自分は子供だったのだろうか。
だから浮気、なんてしたのだろうか。


それでも、俺は。



「そっか、わかった」



笑顔でそう答えるしかない。

ここで泣き喚いて、別れを告げられるほうがよっぽど、辛い。



「…悪い、今日は帰ってほしい」

「え？」



どうして、俺の事嫌いになったの。

言いたいことはたくさんある。
だけど俺の口から出るのはやっぱり、わかったの一言だった。


荷物をまとめて部屋を出た瞬間、涙が止まらなくなった。

どこで間違ったのだろうか。


空はどんよりと暗い。
まるで俺の気持ちを表しているようだ。



宏光が好きだ。
もうどうしようもないくらいに好きだ。



彼と出会ったのは、1年前の夏。

ゲイの俺は毎回ノンケに恋をしては失恋して、行きつけのバーでマスターに愚痴をもらしていた。


あの日も、失恋したばかりで、たまたま隣に座っていたのが彼で、いつの間にか彼にも愚痴をもらしていた。

彼はとても気さくで、大人な雰囲気がすごく格好よくて、一目惚れしていた。

そこから意気投合してよく会うようになり、ある日突然彼から告白された。

彼はノンケだけど、一途に恋をする俺に一目惚れしたと言っていた。嬉しかった。


ノンケとは結ばれないと思っていたけど、性別関係なく好きだと言われたのは初めてだった。

だから俺はどんなに辛くても、彼から別れを告げられるまでは傍にいたいのだ。


こんなに好きになった人は、きっと彼が最初で最後だから。




．

千日紅 2→←もし君の心の声が聴こえたら 2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す