愛しい君に降りそそぐ

もし君の心の声が聴こえたら 2 ページ29

F．




北山に、心の声が聴こえるようになったことを話そうかと思った。

北山はきっと、信じてくれる。


だけど、聴こえるようになった理由が、昨日の夜俺が願ったからだとしたら、
これはきっと一日限定の能力のはずだ。


今日だけ。
今日だけでいいから、北山の心の声が聴きたい。


今日は二人とも一日オフだ。
俺は今日限りのこの能力を思う存分楽しもうと思う。



そして俺は、北山のいつも聴けない声をたくさん聴くことができた。



「藤ヶ谷、この映画観ようぜ」

“ お前が前に観たいって言ってたやつだよ。めっちゃ探したんだかんな。喜んで、くれるかな。”

「っ、おう。あ、ありがとう…な」

“ え…、それ、反則だろ… ”



いつも割と愛の言葉を口に出してくれる北山だけど、心の中でもこんなに俺を愛してくれているんだって、

その事実が、どうしようもなく嬉しくて。



「…っ、ふ…」

“ ん？ふは、また泣いてる。ほんとにかわいいなあ。”



映画で感動してすぐ泣いてしまう俺の頭を優しく撫でてくれる北山に、さらに泣けてきてしまった。


今なら、伝えられる気がする。

いつも恥ずかしくて言えないけど、今なら、言える気がする。



「北山、俺さ、いつも言葉にできないけど、ちゃんとお前のこと…」

“ わかってるよ、大丈夫。伝わってるよ ”

「っ…」



優しさに甘えたくなるけど、今日はちゃんと伝えたい。



「北山のこと、大好きだよ」



言えた。

俺は隣にいる北山の顔を、覗き込むように見た。


( …え )



「泣いてる、の？きたやま…」



北山が静かに涙を流していて、それを隠すように俺を強く抱きしめた。



“ これからも、ずっとこいつを守りたい ”



聴こえた言葉に、俺は答えた。



「ずっと守ってね。ずっと、守らせてね」

「は？お前、なんで俺の心…」

「ふふ、北山は？俺のことどう思ってるの？」



北山は、ぽかんとした顔をしたあとすぐに、眉間をくしゃっとして笑った。



“ そりゃあもちろん、愛してるよ。”



心の声が聴こえる能力なんて、やっぱりなくていい。


だって、北山は俺に、
表情で、声で、優しさで、温もりで、そしてキスで、

たくさんの愛をくれていたことに気付いたから。




「北山、俺のこと好きすぎ！」


わかりやすい君と、


「藤ヶ谷こそ俺への愛を隠せてねえよ！」


隣にいられるだけで、幸せなんだ。




END．

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