私の仕事 ページ49
Aさんsaid
つい、出てきてしまった。
こっそり聞いてしまった兄の話。
…そうだ、兄じゃないんだ。
まあ、いいや。
私がもらわれていたなんて、全く知らなかった。
確かに、友だちから似てないと言われることは多くあった。
でも、似てない兄妹なんてたくさんいたし、まさか血が繋がってないなんて思っても見なかった。
そうか、一人だけ九条の人間じゃなかったのか。
母や父に好かれなかったことなんて、もうどうでもいい。
そういうもんだった、と自分の中ですでに割り切っていた。
あの人たちのせいで、私と人の間に壁ができてしまったのは事実だけど。
それは自分にも原因があると思うし。
そんなことより一番ショックなのは、キスマイさんたちにそれを知られてしまったこと。
嫌だと思っただろうか。
これまで好かれてこなかった人間と一緒に暮らしていたこと。
九条の人間でもないのに、九条家を貸していたこと。
嫌われてしまったかな。
もともと好かれていたかなんてわからないけど。
あの家から出ていくのかな。
いや、出ていくのは私か。
あの家の人間じゃないんだから。
…私が、出て行く。
それだけだ。荷物もそこまでないし。
なのになんでこんなに嫌なんだろう。
ずっと怖かった。
どんどんどんどんキスマイさんたちと仲良くなっていって。
これまで感じたことのない幸福感に、初めての感情が生まれて。
この生活が続けばいいなんて、らしくないことを思った。
また前のように、彼らから私が消えてしまった時。
この生活を捨てきれないんじゃないかと、怖かったんだ。
実際そうなってしまった。
一生懸命、仕事で壁を作ってきたはずなのに。
手放したくないあの生活。
彼らを起こして。
二階堂くんにご飯をほめられて、千賀くんから美容品を教えてもらって。
渉さんにお茶、宮田さんにコーヒーを入れる。
裕太さんと藤ヶ谷さんがお買い物に付き合ってくださって
北山さんが……優しく見守ってくれてる。
私のカラーだと、白色に塗られたドア。白色のコップ。
全てが愛しく思える。
いつのまに毎日が宝物になってしまったのだろうか。
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作者名：苺パンダ | 作成日時：2020年3月12日 20時
