色欲の公爵8 ページ10
「怯えることはないよ…さぁ、俺の目を見て…?」
シーザーがスージーQの耳に顔を近づけ、甘く囁いたその時だ。シーザーの瞳が、真紅の光を放ち始めたのだ。
そう、あの日、シーザーから別れ際に薔薇を受け取った、あの時のように。
あの時見たものは見間違いだと、スージーQはずっと思っていた。けれど、彼女は今またこうして、シーザーの瞳の色が真っ赤に染まっているのを目にしていたのだ。
次の瞬間、スージーQは自分の周りに花のように甘い香りが漂っているのを感じた。その香りは甘ったるく、ずっと嗅いでいると頭がぼんやりとしてしまいそうだ。
_今すぐに彼から離れなければ。
そう思った時は既に遅かった。スージーQはもう、シーザーの真紅の瞳から視線を逸らす事が出来なくなってしまったのだ。
まるで金縛りにあったかのようにその場から動かずに、シーザーの瞳に釘付けになってしまっていた。
「…いい子だ、スージーQ…さぁ、そのまま俺の…“悪魔の力”に、身を委ねてごらん…?」
“悪魔の力”…一瞬なんのことだとスージーQは疑問に感じた。
しかし、シーザーの瞳が更に輝きを増し、花の香りがむせ返るほどに強まったのを感じたその時、そんな疑問はどこかへ吹っ飛んでしまった。
それだけではない、シーザーへの恐怖、シーザーに恋心を抱いてしまった罪悪感感でさえも_スージーQの心から徐々に消えていった。
それと同時に、スージーQの胸の奥から何かが湧き上がっていく。
それは、“情欲”…。目の前の男…シーザーの全てを欲する感情であった。声も、身体も、愛も…。
「…スージーQ、正直に言ってごらん?君はどうしたいんだい?」
シーザーがそう問いかけた時、スージーQの瞳からは既に焦点を失われていた。頬はほんのりと赤く染まり、恍惚とした表情でシーザーを見つめていた。
そして、シーザーを求めるかのように、彼の背中に腕を回し、静かな声で囁いた。
「欲しい…シーザー、貴方の全てが欲しいの…。貴方に…愛されたい…!!」
「ふふっ、いい子だスージーQ…。さあ、行こうか…君の新しい家へ_」
満足そうに微笑みを浮かべるシーザーは、スージーQの唇にそっ、と口付けを交わした。スージーQは抵抗することなく、それを受け入れる。
__スージーQの心にあった恋人ジョセフへの“愛”は、悪魔の力に取り憑かれた公爵、シーザーへの“情欲”に塗り替えられてしまった__。
(色欲の公爵 END)
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作者名:Choco | 作成日時:2021年1月22日 23時