破れた傘にくちづけ-クジラとペンギン-（緑紫）

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〇sideA





波止場でやくざの抗争、とかセオリー通りで笑える。


私一人だったらどうとでもするけど、今は若が一緒なのに。



絶対絶命。



せめて若だけ逃がせないかと周りを見渡してみるけれど、私たちのほかには人っ子一人いないし、逃げられそうな場所は海の中くらいしかない。油断してる隙を見て車で無理矢理進路を作るか。



若が泳げることを祈って一緒に海にダイブ
私が相手をしている隙に免許を持ってない若に車を運転させて逃がす



到底現実的でないシュミレーションを打ち消したところで、後ろの車のドアが開く音がして


降りてきた男たちの手には、リボルバーが握られていた。








忠「俺が降りるから、その間にAは車で逃げろ」



「なに言ってるんですか。できませんよそんなこと」





私は、あなたのボディーガードで


あなたは、私の大事な許嫁なのに





忠「目的は俺やろ。俺が降りたらその隙にAは車で逃げて安全なとこから組に連絡しといて」

忠「殺されるとは限らんやん。ちょっと脅かされてえげつないお願いされるだけかもしれんで」





安心させるためなのかのんきな顔でへらへら笑う若。目だけがギラギラと光っている。


反対に私は、これから起こることを想像して震えている。



だって

だってこんなの




「むりです」


忠「―――ええから逃げろ。命令や」





ああ、なんで

あなたは、こんなときだけ―――







後ろの席のドアが無常に開いて、バタン、と勢いよく閉まると



私は思いっきりアクセルを踏んだ。




背後から聞こえる喧騒と、そのあとの、銃声。


絶望の音。







その日は、いつもと同じ一日だった。




泣きながら夢中で車を走らせた視界の隅に


黄色い、見覚えのある車が見えた気がした。





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