破れた傘にくちづけ-動物図鑑-

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◯sideエース



ペンギンの飼育員ちゃんはペンギン担当ではなくなったらしい。

どこにいるかわからんから一緒に探してって言われたので、館内の声に耳を澄ましてみる。


そもそも俺はその子を知らない。

外見の特徴だけは聞いたから目も耳も働かせながら館内をウロウロしてると、よこしまな下心と共に客の女たちが声を掛けてきて、邪魔な事この上ない。


こんなとき、ジョニーの能力は正直うらやましい。



俺の頭ん中にはごちゃごちゃした思考が絶えず入り込んでくるから、誰か一人に興味をもつ事なんて無意味や。
いざ集中したら、そいつの思考はいいのから悪いのから一緒くたになって流れてくるから興味と失望は同時。


ジョニーがその子を気にしているのは俺から見たらバレバレ。

俺たちの能力はそれぞれバラバラやし、家族みたいに暮らしてはいるけど、生きてきた時代も環境も性格も全然違う。


俺らは家族やけど別の個体なんやから、俺の人間不信まで付き合ってくれんでええんやで。
仲良くできる人間と会ったんなら、なんぼでもしたらええねん。

なんかあったらそん時はそん時や。頼りにならんような俺らやないやろ。


「何かお探しでしたらご案内しますよ」


卑猥な事を考えながら俺に近づいてきた女が下心を隠して営業スマイルで声を掛けてきたから、ちょうどええと思って俺もにっこり、偽の笑顔を作った。


エ「ペンギンの担当だったAちゃんって、今どこにおんの？」






エ(クラゲの研究室におる。一階の奥)


それだけジョニーに伝えて、俺は入口から一番遠い椅子に座ってぷかぷか浮かぶクラゲを眺めていた。


劇場みたいな円形の部屋の真ん中の円柱。

その中に、ライトアップされたクラゲが漂っている。


周りの壁にはめ込まれた水槽にも、いろんな種類の無数のクラゲ。
プラネタリウムの星みたい。


あれにも思考はあるんやろうか。


さっき声を掛けてきた職員から、クラゲの水槽の横が研究室でAちゃんは今月からそこに異動になったんやと聞いた。



水槽の中に一個だけある扉の奥に、2人の人間の気配。
中からは同僚らしきのおっさんの雑念の多すぎるうるさい思考に交じって、研究に没頭しているらしい女の子のつぶやきが聞こえる。

多分これがAちゃん。



ジョニーの匂いが鼻をかすめた、と思ったら入口からジョニーが入ってきて俺に目配せする。



ジョ(ありがとうエース)




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