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「こんばんは」
店はまだ開店前みたいで、薄暗く冷たい空気が流れていた。
目の前のテーブルセット、その椅子に跨って、濃い顔のイケメンがまっすぐこっちを見ている。
アラジン。
エ「おそい」
エ「あとアラジンやなくてエース。何回言わすねん」
「…すみません」
エ「店の前でどんだけ悩むんかと思って待ちくたびれたし、その前にこの前挨拶してからどんだけ日数経ったと思ってんの」
「扉越しでも聞こえるの？」
エースは『人の頭の中の声が聞こえる』と言っていた。つまり、考えていることが筒抜け。
エースは不敵な笑いを口の端に浮かべる。
エ「A声デカいから全部聞こえる」
頭の中の声がでかいって、どうすればいいの？
エ「多分俺と周波数がバッチリあってるだけやから、どうしようもないんちゃう？」
「考えただけのことに返事されるの、なんかイヤ」
そう言うとエースはハハ、と笑った。
エ「早よ入り。戸閉めて、野良猫入ってくるから」
「ちょっと、野良やないですよ」
食い気味に言いながら、私の後ろから入ってきたのは。
「マルさん！」
昼間会ったばかりの、パティシエのマルさんだった。
エ「ガムのへたくそ」
「えぇー、ひどいよエース。俺頑張ったやんかー」
言いながらぐいぐい私を店の中に押し込むその仕草は、まさに。
「あッ、さっきの猫！」
エ「バレんのはや。ガムちょろいわー」
マルさんはくるっと私の前に向き直って私の方に両手を出して、言った。
「マル改め、ガムです。仲良うしてくださいね」
まさかの、吸血鬼その3？
思わずエースを見ると、彼はまた不敵な笑いを浮かべた。
エ「頭ん中の声に返事されんの嫌なんやろ？」
うわ、底意地悪い犬だな。
エ「何やとコラ！」
ガ「ちょっとエース、僕が挨拶してる途中やねんから噛みつくんは後にしてよ」
私の方に出された両手は、どうやら握手の催促だったらしい。有無を言わさず手を取られて引っ張られた、と思ったら、耳元で「あと4人おるから、心の準備してな」と囁かれた。
あと4人もいるの！？
エ「おいガム、ばらすな」
おもろいとこやったのに、と言って拗ねるエースは、なんだかかわいかった。
マルさん改めガムは、拗ねるエースを見て、ニヤニヤ笑っていた。この人はほんとに距離感がわからない。
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作者名：きりん虫
| 作成日時：2020年7月6日 21時
