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忠義に最後に会ったのは祖父のお葬式の時だった。
長期の休みの度に山に遊びに来ていた忠義とは、小さい時から仲が良かった。
自然の中で遊ぶしかなかったから、私達は2人でいろんな遊びを考えだして気がおかしくなるほど笑ったりけんかして泣いたりした。
ずるがしこくて、本当は怖がりで、大きい口を開けて笑う、泣き虫なたーくん。
私は高校から家を離れたし、思春期にはそれなりに距離があったけれど、忠義はずっと祖父の仕事に魅せられていて家に通うのをやめなかった。
私達はずっと昔から、同じものを愛していたのだ。
祖父の臨終の場に立ち会ったのは忠義で、私はそのことで自分に激しく憤っていて、お葬式の日、久しぶりの再会だったのにも関わらず、忠義とは一言も口を聞かなかった。
近くに寄ったら八つ当たりして噛みついてしまいそうだったので、遠くから人を介してあいさつしただけで、その時の忠義の姿はよく覚えていない。多分、見ないようにしていた。
しばらくしてから、家や遺産の事で丁寧な連絡をくれて、細々としたやり取りをする中で、世間話ができる大人の親戚の関係にはなったけれど。
こと、と音を立てて目の前に置かれたコーヒー。
立ち昇る緩やかな湯気が、室内が程よく暖まっている事を示していた。
「忠義」
「ありがとう、待ってくれて」
目の前の彼は、コーヒーカップから目を離して怪訝な顔でゆっくり私を見た。
やっぱり背が高い。
祖父のお葬式の日、ちゃんと話していれば、もっと早く気が付いたはずだった。
愛する世界が常に変わっていくことにも、彼が大人になった事にも、おおもとの根っこのところは何も変わっていないことにも。
忠「ほんまは迷ってた」
忠「Aがあんまりやばそうやったら、意地でもしばらく居座って一人にせんほうがいいんかな、と思ってたし、ここは俺にとっても大事な場所やから」
忠「家に着くまでは五分五分やったんやけど、運転しながらバックミラーでAの顔見て考えてん」
忠「ここはやっぱり、俺にとっては『じいちゃんとAの家』やし」
忠「もうここから、何かが無くなっていくのは見たくない」
忠義の、きれいな顔が少し歪む。
その心地よく響く低い声が、揺れる。
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きりん虫(プロフ) - 茅香さん» 茅香さんはじめまして。人間味のある橙さんが私のツボです。コメントありがとうございます。 (2020年4月18日 5時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
茅香(プロフ) - はじめまして。自分は黒担なのですが、きりん虫さんが描かれる狡いオレンジさんがとても好きです。 (2020年4月18日 1時) (レス) id: 79a5f5eb6c (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん明けましておめでとうございます!どうも青さんは天からの使者になりがちですね。尊い´д` ;。今年もよろしくお願いします! (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ニァさん» ニァさんはじめまして。コメントありがとうございます!自然と再生が裏テーマだったので季節描写が多かったのですが、楽しんで頂けたならよかったです。また更新中の作品に戻りますので遊びに来て下さいね!よろしくお願いします^ ^ (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - 暖かい緑さんに包まれたくなります!そしてキツツキさん、彼は鳥さんになりがちですね♪幸せの青い鳥さんでしょうか(*´ω`*)ホワホワ (2020年1月4日 0時) (レス) id: 9f4337f44a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2019年12月21日 17時