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女の子の涙で濡れたみぞおちが、すうすうする。
お母さんだって、本当はこの子に会いたいと思っているんじゃないだろうか、と思ったけれど
正しいのは隆平さんで、私は何かが欠落しているのだ、きっと。
隆「Aさん、行こ」
隆「ちょっと寄り道してもええ?ボランティアのお礼にええもん見せたるわ」
児童館の仕事は、その日が最後だった。
もともと夏休みの間だけ、という約束だったし、学校が始まれば児童館に来る子供たちも少なくなるから。
隆平さんの運転する不安定なハンドル操作の車に乗るのも、これが本当に最後だ。
隆「ごめんなぁ、お世話になりっぱなしやったな」
「ううん、勉強になった」
ほんとうに。
親子、とか子供、とか、未知との遭遇だった。
絵本を作る、という自分の仕事を考えれば、避けては通れない道なのに。
隆「子供って、難儀やろ」
「かわいくて、不思議。私もあそこを通過したはずなのに、自分がああだったとは全然想像できない」
隆「かわいくて、不思議、な」
隆「Aさんは今も『かわいくて、不思議』やわ。俺にとって」
そう言われて、ふと思う。
私も、そう思っていたのではなかったか、隆平さんの事を。
隆「子供の時も想像を絶するかわいさやったんやろうなぁ、Aさんは」
隆平さんがこっちを見て笑ったので、私もあいまいに笑い返した。
「お願いだから前を見て」
私のみぞおちを濡らしたあのぬくもりよりもかわいいものがあるだろうか。
あったとしても、それは私ではない。
隆平さんの目は、狂っている。
隆平さんが連れてきてくれたのは、宿泊場所から少し離れた、小高い丘。
少し高いところにあるその場所は、眼下に街が臨める、夜景のきれいな展望台だった。
あの灯りのひとつひとつに、人が、家族が、営みがあると思ったら、めまいがしそうだ。
家族の形はそれぞれで、私の家族だけが特別なのではない。
今日は、きらきらしたものを見すぎている気がした。
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きりん虫(プロフ) - 茅香さん» 茅香さんはじめまして。人間味のある橙さんが私のツボです。コメントありがとうございます。 (2020年4月18日 5時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
茅香(プロフ) - はじめまして。自分は黒担なのですが、きりん虫さんが描かれる狡いオレンジさんがとても好きです。 (2020年4月18日 1時) (レス) id: 79a5f5eb6c (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん明けましておめでとうございます!どうも青さんは天からの使者になりがちですね。尊い´д` ;。今年もよろしくお願いします! (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ニァさん» ニァさんはじめまして。コメントありがとうございます!自然と再生が裏テーマだったので季節描写が多かったのですが、楽しんで頂けたならよかったです。また更新中の作品に戻りますので遊びに来て下さいね!よろしくお願いします^ ^ (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - 暖かい緑さんに包まれたくなります!そしてキツツキさん、彼は鳥さんになりがちですね♪幸せの青い鳥さんでしょうか(*´ω`*)ホワホワ (2020年1月4日 0時) (レス) id: 9f4337f44a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2019年12月21日 17時