7 ページ19
.
亮「もう俺の事、信じられへんのはわかるから、村上君にお願いしてん」
亮「クリエイティブなとこばっかり見てて権利とか法律とか全然わかってなくて。結果だますみたいになってもうて、ほんまに後悔してる。担当失格やった」
亮「本が出来上がっていくのを見てるうちに、俺も一緒に作ってるみたいな気持ちになってて」
泣きそうな顔で言い募る錦戸さん。
さっきまで緊張して敬語だったのに。
任せっきりにしていてきちんと確認しなかったのは、私の落ち度だ。
そのことは信五君に嫌というほど怒られたし、錦戸さんが本当にあの本を大事に想ってくれていたのはわかっている。
頭では。
だからこそ、こんなことになって、気持ちの整理がつかなくて、信五君に泣きついたのだ。
私も錦戸さんも。
信「亮なぁ、法律教えてください、言うて俺の事務所来てんで」
信「俺はとりあえず、亮と同意見や。サインするのはちょっと待て。そんでもうごたごたしたくないんやったら面倒事は俺らで引き受けるから」
信「大事な本なんやから、ちゃんと大事にせぇ」
私はなんで、この人を錦戸さんに紹介してしまったんだろう。
大切な本を一緒に作った担当者と、頼りになる友達。
二人とも、とても大事な人。
大事なものは、ちゃんと大事にしなければ。
「なんでそこまでしてくれるのか、全然わからないけど」
「任せてもいいなら、任せたい」
「ふたりに」
対面のふたりは私の返事を聞いて、にっこり笑って、肩を寄せ合った。
カップルか。
私の口からはまた舌打ちが出そうになったのだけれども、私はそれを、ぐっと飲み込んで、別の事を言った。
私の頭にあるのは、祖父の顔だ。
あの家の中で佇む、祖父の顔。
あの人なら、どうするか。
「まだ時間があるなら」
「この後の相談もあるし、家に寄っていく?」
信「ええの?」
察しのいい男。
私が錦戸さんを家にあげたくないと思っていたのに気づいていたんだ。
「いいよ」
「中、見てほしいし」
錦戸さんに。
意固地になってその一言を飲み込んだのは、私。
でも本心だ。
私の愛している家。私達の作品のもとになった場所。
そこを見て、さっき庭を見て目をきらきらさせていた彼がどんな顔をするのか、本当は私も見てみたかった。
3月の窓。
そこから舞い込んでくるのは、嬉しい春の知らせ。
.
243人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きりん虫(プロフ) - 茅香さん» 茅香さんはじめまして。人間味のある橙さんが私のツボです。コメントありがとうございます。 (2020年4月18日 5時) (レス) id: 04ee5be231 (このIDを非表示/違反報告)
茅香(プロフ) - はじめまして。自分は黒担なのですが、きりん虫さんが描かれる狡いオレンジさんがとても好きです。 (2020年4月18日 1時) (レス) id: 79a5f5eb6c (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん明けましておめでとうございます!どうも青さんは天からの使者になりがちですね。尊い´д` ;。今年もよろしくお願いします! (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - ニァさん» ニァさんはじめまして。コメントありがとうございます!自然と再生が裏テーマだったので季節描写が多かったのですが、楽しんで頂けたならよかったです。また更新中の作品に戻りますので遊びに来て下さいね!よろしくお願いします^ ^ (2020年1月4日 8時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - 暖かい緑さんに包まれたくなります!そしてキツツキさん、彼は鳥さんになりがちですね♪幸せの青い鳥さんでしょうか(*´ω`*)ホワホワ (2020年1月4日 0時) (レス) id: 9f4337f44a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きりん虫 | 作成日時:2019年12月21日 17時