破れた傘にくちづけ １

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俺は人間の考えてることが聞こえる。


転生する前から人間なんてそんなに信じてなかったけど、吸血鬼になってから得たこの能力で、ますます人間は性悪で劣悪で生きてるもんの中でも最低やと思うようになった。


そんなもんの血を吸って生きてる俺も最低な気分。
仲間がおらんかったらどうにかなってたかもしれん。


吸血鬼の頭の中は聞こえないから、みんなといる時だけは俺は素でいられる。



今日の客は最悪。

癖の強い常連だけでもうるさいのに、最近よく来るようになった若い女(こいつはいつも頭ん中でどうやって俺を落とすか考えている)が同じようなオツムの女たちを連れてきて相乗効果でうるさいし。


マックがわざと隅に案内した若い2人組の男は、カウンターのAを見て揃いもそろって反吐がでそうなことを妄想してた。
実行したら警察行きやと思うけど。


男達の頭ん中まで聞こえてたのは俺だけやし、マックはまた中学生みたいな反応しかしてなかったので、ジョニーに断ってAを店から連れ出した。




「隙だらけやで、ナンパされそうやから中戻ろ」て言うたらちょっと不本意そうな顔して店内を見渡して、マックの顔見たとこで素直にスツールを降りたA。


俺の忠言よりも、マックのちょっと口のとがった顔の方がお前に刺さったらしいことには気づかなかったことにする。




エ「なぁ、契約って、どういう感じ？」


「うん、よく、わかんない」


彼女の頭の中もぐるぐる。
ボールペンで線を書きなぐったみたいにもやもや。


「一番近い感情は、愛、かな」


「これが、契約のせいかどうかもわからないけど」

「なんかこう、自分の命よりも大切なような、気がする」


Aが自分の頭の中の混沌から、誠実に、俺に伝えるために言葉を選び取ったのがわかった。



Aの頭の中は、聞こえていても不快じゃない。


もし契約が絶対的なもんで、契約してもうたら有無を言わさず側に居らんといけんのなら。


その“愛”みたいな感情に支配されるんやとしたら



俺は、Aみたいな子と契約したい。







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