まちがえた(アキ) ページ15
バケツの水をひっくり返したような雨が地面に当たって、バチバチと大きな音を立てていた。
夏の天気は変わりやすい。さきほどまで綺麗な水色だったのが嘘のように、空は重いどどめ色の雲に覆われていた。
「本格的に降ってきましたね」
「ああ。夕立ちだといいけどな」
せっかく憧れの早川先輩と一緒なのに、雨だなんてついてない。
ちらりと横に座る先輩に目をやると、濡れて額に貼り付いた前髪を鬱陶しそうに払っていた。
うわ、かっこいい。
なんてことない仕草なのに、私の心臓はバクバクと大袈裟な音を立て始めていた。
天使くんが何かの用事で本部にいない今日、暇を持て余していた私が早川先輩と臨時のバディを組むことになった。
ほとんど会話したことがない上に、課も違う私が早川先輩と組めることになるなんて。これを奇跡と呼ばずになんと呼べばいいのだろう。
更に奇跡続きで、今日は悪魔らしい悪魔も出ず、仕事も簡単なパトロールだけで終わりそうだったのだ。
憧れの先輩と一日中肩を並べて歩いて、私はすっかり浮かれていた。
これって傍から見たら恋人同士に見えるんじゃないか?実質デートなんじゃないか??なんて罰当たりなことを考えもした。
仕事中にそんな邪なことを考えていたから、本当に罰が当たったのかもしれない。
あと少しで本部に戻れるというところで当然大雨に襲われ、私達は近くの公園の東屋へと避難したのだった。
雨に降られたのはついていないけど、それで少しでも長く先輩といられることになったから、それでもいいか。
「煙草、吸ってもいいか?」
先輩が煙草をポケットから取り出した。
先輩が取りだした煙草は、なんとなく『先輩っぽい』と思うようなパッケージだった。
「あ、どうぞ」
私がそう言うと、先輩は慣れた手つきで煙草に火をつけた。
そして唇で煙草を軽く咥えて、煙を吸い込んだ。
その所作がやけに色っぽくて、私は釘付けになってしまう。
「…………俺の顔、なんか付いてるか?」
その視線は早川先輩にも伝わっていたようで、先輩は怪訝な表情を私に向けてきた。私は慌てて視線を逸らす。
「あっ違うんですよ、あの、」
すみません、あんまりかっこよかったんで見蕩れていました。なんて馬鹿正直に言う訳にもいかず、私はへらりと笑って誤魔化した。
「煙草いいなー、吸ってみたいなーって思ったんですよ。1本くれませんか」
早川先輩の怪訝な表情が驚きに変わる。
そして聞いてきた。
「いくつだ」
「え?」
「歳。お前の」
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ちえ - アキくんの夢もまだ少ないのでこれから楽しみに待ってます (2022年10月15日 23時) (レス) id: 0560ab194e (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - チェンソの夢はまだまだ少ないので嬉しいです!とても面白かったです!キャラクターの思考や話し方なんかがとても自然で楽しく違和感無く読めました。次回を楽しみにしています。差し支えなければ、マキマの夢が読みたいです。女夢主であればどんな話でも嬉しいです。 (2021年7月8日 0時) (レス) id: 979541037a (このIDを非表示/違反報告)
肩サラダ(プロフ) - チェンソーマン大好きなのでこういう短編集がすごく嬉しいです、、!最高です!!リクエストをお願いしたいのですが、ビームくんで女主のお話を書いて欲しいです!お時間ある時で構いませんのでよろしくお願いします! (2021年2月11日 20時) (レス) id: dfa81ef2dc (このIDを非表示/違反報告)
切れ端(プロフ) - ドコサヘキサエン酸さん» コメントありがとうございます!もっと良いものが書けるように頑張りたいです;;本当そう思います!アニメ化がきっかけになって、もっと増えたらいいな…… (2021年1月10日 0時) (レス) id: f24ed74d9a (このIDを非表示/違反報告)
切れ端(プロフ) - あるみくさん» コメントありがとうございます!嬉しいです…!更新頑張ります! (2021年1月10日 0時) (レス) id: f24ed74d9a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:切れ端 | 作成日時:2020年4月20日 11時