196 イベント/ 願望と現実 ページ46
.
門が見えるところまで行くと、コートを着た施設長が封筒を手にして立っているのが見えた。
ライブ中なこともあり辺りに人ひとり居なかった。
「…っ施設長！」
「…Aちゃん」
「見つかったの…！ママ、見つかったんでしょ!?」
施設長は切羽詰まった表情で、腕に掴まれたAの手をゆっくりと包んだ。
「冷えてるよ」なんて、そんなどうでもいいことを言う。
余裕がないのはAだけではなく施設長もなのに。
「君が嫌いなクリスマスに届くなんて…神様も振り回すよね、本当に」
「ねえそんなのどうでもいいよ。それ調査結果でしょ? いいからちょうだい──」
「Aちゃん」
「…何? …ていうか、何で施設長、震えてるの?」
寒いからだろうか。
確かに寒いけれど興奮でそれどころではない。
「Aちゃん、落ち着いて聞いてね…」
施設長がAの肩を震える手で掴んだ。
「Aちゃんのお母さんね、お母さん…は」
「……」
瞳が、揺れる。
「…っ君のお母さんはもう、亡くなってた、って」
「──」
え?
「お父さんが事故で亡くなって多額の借金を背負った事で君を育てられなくなって12年前のイブの夜中…今日、君を学園の前に置いていった…」
「…」
「本当は迎えに行くつもりだったらしいんだ、君の事を…。約束は嘘じゃなかった。君の言う通りだったんだ。
そのために借金返済しようって働いて働いて働いて、でも返せなくて。それで2年前、最期は…自ら」
( …なんだ、なに? なにが、なんなの? )
頭が、真っ白だ。
本当は迎えに来てくれる予定だった、
本当なら一緒に暮らせるはずだった。
『本当』って、何?
私、私は…
「──」
「っ、Aちゃ」
「分かった。ありがとう、施設長」
「…っ」
「あ…私もう行かなきゃ……最後を、任せられてるんだ」
「ダメだ！そんな顔でステージに立つの? 今にも倒れそうなのに」
「じゃあね」
「Aちゃん！Aッ！」
__ そこからもう何も覚えていない。
気づいたら後半ももう終わっていて、舞台袖に立っていた。
1位を取った“Trickstar”が最後にはけてくる。
「あっうっきょーん！俺たちのステージ見ててくれたっ? ……うっきょん?」
「ごめん見てない」
「…どうしたの」
「…分かんない。もう、分かんなくなっちゃった」
自嘲気味に笑うAに触れようとスバルが手を伸ばすも、ステージに出たAには届くことはなかった。
.
197 イベント/ 喪失感→←195 イベント/ 願望と現実
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 598人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かげやま(プロフ) - 瑠衣さん» コメントありがとうございます。遅くなってしまってすみません…（ ; ; ）引き続き楽しんでもらえるように更新頑張ります🥹🫶 (2022年10月24日 11時) (
レス) @page21 id: cbb4c9f31f (このIDを非表示/違反報告)
瑠衣(プロフ) - 更新ありがとうございます！続きがすごく楽しみです、、！ (2022年10月23日 20時) (レス) @page21 id: 04c1c43a5d (このIDを非表示/違反報告)
かげやま(プロフ) - めぐるさん» コメントありがとうございます。このあと先もドキドキを届けられるように更新頑張ります✊読んでくださると嬉しいです〜🫶 (2022年9月30日 10時) (レス) id: cbb4c9f31f (このIDを非表示/違反報告)
めぐる(プロフ) - 更新のたびにどきどきしてます！がんばってください！ (2022年9月30日 10時) (レス) @page7 id: 3d1c15bfdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かげやま
| 作成日時：2022年9月29日 6時
