【募集企画】東方幻想記録物語8巻 (ページ3)

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傲慢な台詞　瀧花千歌ページ3

「ぐっばーい、君のー、運命のひとーはぼーくじゃな……ん？」

外の世界の流行歌を口遊みながら、所謂ギャルが歩いている。外の世界ではポピュラーな高校の制服に身を包んだ、幻想郷にはそぐわない格好の少女―――瀧花(たきはな)千歌(ちか)は、異様な雰囲気に立ち止まった。
千歌の視線の先、小さな路地の突き当たり。そこに居たのは、中性的な美貌を持つ―――青年とも少女ともつかない人間だった。

―――その佇まいは、どこまでも狂っているようで。

―――その佇まいは、どこまでもズレているようで。

紫紺の双眸(ひとみ)には興奮が宿り、人形のような表情(かお)には恍惚が溢れていて。拭い去れない程の狂気がべったりと張り付いている―――そんな、異様な佇まいだった。

「―――あれは」

千歌の口から、言葉が落ちた。
それ(・・)の存在くらい、噂に聞いていた。千歌の情報収集能力は伊達ではない。これでも情報網の規模は射命丸文(ブン屋)に勝るとも劣らないと豪語しているのだ。友人の中には、森羅万象を知る運命を背負った人間も居る。いくら頭が軽そうな振る舞いをしているからといって、ギャルを舐められては困る。―――だが。

―――どうしてあんなに、辛そうなんだろう。

何千年と生きているはずなのに。その在り方はまるで―――まるで、泣き叫んでいる子供のようだ。
千歌はじいっと少年を見ていた。どこまでも狂っている、どこまでも手遅れな少年を。
あんなに狂っていて、あんなに興奮して(トんで)いて、どうして―――こんなにも苦しんでいるのだろう、と。
そして、思ってしまった。
その台詞は烏滸がましいにも程がある。その台詞は上から目線にも程がある。けれど、

―――ああ、救ってあげたいな。

千歌はどこまでも真っ直ぐな人間だった。苦しんでいる人間は放って置けなかった。ならば、救いたいと願ってしまうのは当然の事だった。千歌はどこまでも、正義を愛しているのだから。
気付けば足が動いていた。気付けば口を開いていた。千歌は気付けば、少年に向かって言い放っていた。

「あたしがアンタを救ってやる！天宮雫、アンタのクソみたいなスペルをぶった斬って！異変を止めて！そして―――あたしはアンタの友達になるんだ！」

なんと傲慢な台詞だろうか。
だが、千歌は止まらない。例え傲慢であろうと、他者は救う。それが彼女の信念で、それが彼女の行動原理だった。