58.案内 ページ9
男の子の様子が落ち着き始めた頃、私は彼を見ながら思った。
これって、めちゃくちゃ有力情報なのでは?
「あのね、辛い事を蒸し返すようで申し訳ないんだけれど、河童が女の子を引きずり込んでた場所ってここかな?」
赤い目元が私を見る。
「…ううん。もっとあっち。橋の近く」
そう言って指差したのはさっき私が歩いてきた方だ。
これは丁度いい。
無一郎くんに知らせないと!
「ねぇ、案内してくれる?」
「え…?」
戸惑う男の子の手を引いて立ち上がらせた。
暫くして「わかった!」と頷いた男の子と手を繋いで私は来た道を戻る。
無一郎くん、まだいるかな?
近所を聞いて回ると言っていたし、あれから時間が経ったからもう移動したかもしれない。
自然と早足になって歩くと、先ほどの橋が見えた。
いつの間にか日が傾いていてもう夕方だ。
急いで見つけて帰らないと、また無一郎くんに怒られるだろうな…
「お姉さん!ここだよ!」
ぐいっと男の子が私の手を引いて立ち止まる。
「えっ?」
橋の少し手前。
川の方を見れば、確かに土手から川に向かって何かを引きずったようにそこだけ草が横に倒れている。
その向こう側を渡った先は林になっていて、その奥に山がある。
ここから見た感じ、向こう岸の土手は引きずった跡も無さそうに見えた。
男の子が言うように鬼が女の子を担いで行ったからだろうか?
この方角を真っ直ぐ行けば鬼の寝床にたどり着くのかもしれない。
「…A?」
その時、聞き覚えのある声がして振り返った。
「無一郎くん!」
「何で居るの」
彼が呆れた顔をしている。
帰るよう言われたのに、また戻ってきたから当然だけど。
「ご、ごめんなさい」
「その子誰?」
私が手を握っている男の子に彼の視線が注がれる。
「この子は八百屋の奥さんが言っていた河童を見たって子」
言えば無一郎くんが目を見開いた。
「えーと、名前は………」
あれ?そう言えば聞いていないな…
と思って男の子を見る。
「
「進くん?」
「うん。お姉さんは?」
「A。こっちは無一郎くん」
進くんに分かるように無一郎くんを手で示した。
「何で今自己紹介してんの」
私たちの関係性が今一理解できていない無一郎くんに私は「あはは」と曖昧に笑って見せる。
「色々あって………。あっ!それより、この進くんが河童が女の子を拐うところを見たらしいんです」
言えば彼が目を細めた。
「詳しく教えてくれる?」
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時