56.河童伝説 ページ7
「その話しなら最近よく聞くわ」
私の話を聞くなり、奥さんは話し始めた。
「うちのお客さんの娘さんも一人居なくなっちゃってね。一人娘だったから、それはもう可愛がっていたわ。奥さんがずっと探し回っているみたいだけれど、見つからなくてかなり落ち込んで…可哀想に」
八百屋の奥さんは自分の事のように眉をハの字に歪めた。
「そうなんですか…」
「昔から河童が出るって伝説がある川があるんだけれどね。その川の近くで居なくなったらしいのよ。最初、川に落ちたんじゃないかって。川も探したみたいだけれど、何も見つからなかったそうよ」
「河童の伝説?」
隣にいた無一郎くんが眉を潜めた。
私も何度かこの町に足を運んでいるけれど、初めて聞く内容に少し戸惑う。
「えぇ。私たちもお伽噺だと思ってたんだけれどね。『河童を見た』って男の子がいて。そういうこともあって、最近は河童の噂を信じてる人もいるわ。…貴女も若い娘さんなんだから、気を付けてね」
*****
八百屋の奥さんに居なくなった娘さんのお家と河童の伝説がある川を教えてもらった。
娘さんが居なくなった奥さんを訪ねると、塞ぎ込んでいて体調を崩してしまったらしく、会うことは叶わなかった。
変わりに看病で家にいた旦那さんに話を聞くと、娘さんは奥さんが近所に届け物を頼んだ帰りに忽然と姿を消したそうだ。
彼女は河童の伝説がある川を渡った先に届け物を持って出掛けたらしい。
荷物を受け取った住民は娘さんがいつもと変わらない様子だったから、行方不明の話を聞いて凄く驚いていたそうだ。
「河童って、本当にいるんですかね…」
娘さんが行方不明になったと思われる川に掛かっている橋まで来た私たち。
川の流れを眺めて、ぼんやり呟くと翼の音をバサバサ響かせて無一郎くんの鴉である銀子がどこからか飛んで来た。
橋の手すりに留まって無一郎くんと向き合う。
「川ノ向ノ山ニ民家ハ無サソウヨ。洞窟ナラアッタワ」
えへんと胸を張って報告する銀子に無一郎くんは「そう」と短く答えた。
そうしてまた銀子が飛び立っていく。
「河童は、鬼かもしれない」
「え?」
「山に民家はないけど、洞窟があるなら鬼がそこ隠れている可能性がある。河童の伝説があるならその可能性は高い」
「でも、まだ決まった訳じゃ…」
「疑う余地は十分ある。それに河童を見た子供がいるでしょ」
言われて八百屋の奥さんの話を思い出す。
河童を見た男の子がいると、確かに言っていた。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時