93.カステラと ページ44
ある日のこと。
蝶屋敷でアオイさんの洗濯の手伝いをしに行こうとした時、遠くでバリンと何かが割れた音がした。
気になって、音がした方へ歩いていく。
角を曲がると隠の人に出くわした。
私を見て「あ!」と言ったその人をよく見る。
「後藤さん!…なに持ってるんですか?」
お皿の上に乗っているお菓子と思われるものを指差す。
「あぁ、高級菓子のカステラだ。炭治郎への贈り物だ。持ってくように頼まれた」
「カステラ!?美味しそうですね!」
「正直、俺が今すぐにでも食べたい…」
羨ましそうにカステラを眺める後藤さんに思わず笑う。
「後藤さんって欲に正直なんですね」
歩いていると炭治郎くんが寝ている部屋の近くにきた。
「戸が開いてる…」と呟いた後藤さんが部屋の前で立ち止まった。
「入らないんですか?」
ひょこっと後藤さんの背中から覗き込めば、入り口の床に割れた花瓶の破片が散らばっていた。
私がさっき聞いた音はこれだったのかもしれない。
「………。すまん。ちょっと持っててくれる?」
後藤さんからカステラの乗ったお皿を受け取る。
そうやって床に膝をついて破片を拾い始めた後藤さんの奥に、よく見知った背中がベッドの前に椅子を置いて腰かけているのが見えた。
「あ、カナヲ」
声をかけるとカナヲがゆっくり振り向いた。
「A」
眠ったままの炭治郎くんをお見舞いする彼女の姿に、私の時もこうやって起きるのを待っててくれたのかな?と色々考える。
カナヲは炭治郎くんのこと凄く心配なんだね。
そう思って側に行こうとした時、丁度花瓶の破片を片付け終わった後藤さんが私からお皿を受け取った。
そうしてカナヲの側に寄った私は目を見開く。
「た、炭治郎…くん……」
呼べば彼が力なく笑う。
「あのー。これカステラ置いとくんで。暫くしたら下げください。傷みそうだったら食べちゃっていので」
カナヲとは反対側のベッドの脇に立って話しだした後藤さん。
「あ…、ありがとう……ございます……」
「…。」
後藤さんが声を発した人物を認識した途端、その手からお皿ごとカステラが掛け布団の上に落ちた。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時