記憶を求めて 2【時透無一郎】 (ページ41)

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「しのぶさんはご存じだったんですね」

翌朝、私はしのぶさんを尋ねた。

「全て思い出しました」と告げれば静かに部屋を通された。

「黙っていたことは、申し訳ありません。ですが、こちらから事実をお伝えしてもAさんの為にならないと思ったんです」

「どうしてですか？」

少し冷たく聞き返すと彼女が目を伏せた。

「記憶を失ったまま、貴女を襲ったのは鬼になったお母様で、一緒にいたお二人の男性はお父様とお兄様だとお伝えしても他人事にしか聞こえなかったでしょうから」

しのぶさんなりの思いやりに、理不尽に彼女に当たっていたようで申し訳なくなる。

「…すみません。そんな風に気遣ってもらっていたなんて……ありがとうございます」

「いいんですよ。………後で、お荷物をお渡ししますね」

と言ってから「それと…」と彼女が続ける。

「Aさんはこれからどうなさいますか？ご実家に戻られますか？」

聞かれてどきっとした。

そんなことはこれっぽっちも頭になかった。
助けてもらった当初は記憶が戻ったら家族の元に帰れると考えていた。

でもその家族がいない今、果たして家に戻ったところであの土地で仕事もない私が一人で暮らしていけるだろうか………

半年以上誰も住んでいないのだ。
近所では行方不明扱いになっているかもしれない。

家も荒らされているかもしれない。

でも、ずっとここにお世話になって甘えていてもいいのかな………

たった一人ぼっちだと思い出した今、凄く不安になる。

「…先のことはわかりませんけど、家族もういないので。ご迷惑でなければまだこちらにいさせてほしいです」

「分かりました。私の方は構いませんよ」

「ありがとうございます」

軽く頭を下げるとしのぶさんが笑いかけてくれる。

「では、思い出した今なら、きちんとお別れ出来ますよね」

＊＊＊＊＊

その翌日、そんな彼女に連れられて私は家族が眠るお墓に案内された。

今まで忘れてしまっていたせいで、会いに来るのが遅くなってしまったことをみんなに謝る。

これからどうしようか、という不安もあった。

けれど、兄や父が私を生かしてくれた行動を無駄にしない為にも生きていくことを誓った。