記憶を求めて 2【時透無一郎】 (ページ5)

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54.希望は持たないページ5

うどん屋さんを出る少し前。
試しに最近、身近で行方不明になった人がいないかや、変なことが起きてないか店主の奥様に聞いてみたら少し気になる話が出た。

「さぁ…分からないねぇ。……あぁ、でもお客さんで姪っ子さんが居なくなったとか話してる人がいたかねぇ」

「その方が何処にいるかとか分かりますか？」

「ごめんなさいねぇ、たまに来てくださるだけだから…」

と奥さんは申し訳なさそうにしていた。

「居なくなった人は誰も見つかっていないんですよね？」

再び隣町に向かって歩き出した私たちは並んで歩いていた。

疑問に感じたことを口にしてみると「うん」と簡潔な返事が帰ってくる。

「じゃあ、これが鬼によるものだったとしても、消えた人が生きている可能性もありそうですね」

言えば無一郎くんの声が少し低くなった。

「そういう希望は捨てておくべきだよ」

「え？」

「鬼は姿も大きさも個体によって違う。異形の鬼だっている。そう言った鬼が人を食らう場合、丸ごと飲み込まれたり、取り込まれることもある。もし、そうだったら何も残らない」

「…っ」

私は自分が襲われた鬼と禰豆子ちゃんしか鬼を知らない。

だから想像していたより恐ろしい鬼の存在があることに衝撃を受けた。

「情報さえ手に入ったらあとは僕の仕事だから、その時はAは帰って良いよ」

その言葉が私の事を思ってなのかは分からない。

けれど、普段と変わらない調子でそう言った無一郎くんの声は少し悲しそうに聞こえた。