83.約束の ページ34
「無一郎くん、どうぞ」
夕食を机に並べていた私は最後に用意したお皿を彼の前に置いた。
「これ…」
「約束のふろふき大根。作ったの」
言えば彼がお箸でほぐした大根を一つつまんで口に運んだ。
「どうかな?」
どきどきしながら聞くと、予想外の答えが返ってくる。
「懐かしい味がする」
「えっと…それは美味しいってことでいいの?」
こくっと頷いた彼がまた一口食べる。
「よ、良かったぁ」
ほっと一息付いて、へなへなと座り込む。
この日のために特別訓練の合間に蝶屋敷で練習した甲斐がある。
もぐもぐ食べ進める彼の横顔を眺めていると、ふと思い出す。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「うん?」
「なんで私に会う資格がないって思ったの?」
ずっと気になっていた。
私の様子を見に来てくれた彼が言っていたこの言葉。
勇気を出して言えば、彼が思い出したように話し出す。
「隣町で鬼に襲われた時のこと覚えてる?」
「進くんの手を取って走って逃げようとしたところまでなら…」
「あの後、Aは鬼に血鬼術かけられて、人質として盾にされたんだよ。その時、僕は一か八か鬼に刀を振るおうとしたんだ。ここで逃がしたらまた被害者が出るからって。もしかしたら君を巻き込むかもしれないのに」
黙って聞いていたら、私の顔を彼が少し不安げに覗き込む。
「怒らないの?」
彼の言う通り、ここは私が怒るところなんだと思う。
でも、私にも落ち度があった自覚がある。
「あの日、私は無一郎くんの言うこと聞かなかったから。『帰れ』って言ってくれてたのに」
「でも僕はそこまで計算に入れるべきだったと思ってるよ。君が言うこと聞いてくれないのは今に始まったことじゃないし」
「う…」
何だか失礼な事を言われた気もするけれど、それはとりあえず置いておく。
初めて会った時からの事を考えると、彼が私のことで悩んでくれていたことが少し嬉しかった。
「でも、無一郎くんは私の安全も選んでくれたんでしょ?それなら十分だよ。元々無一郎くんが助けてくれなかったら私は無一郎くんや蝶屋敷のみんなと会うことも無かったんだから」
「そう」
「私のこと助けてくれてありがとう」
にっこり笑いかける。
「私が動けなくなったのを運んでくれたのも、時間を見つけてお見舞いに来てくれていたことも本当に嬉しかった。何度も来てくれてたんでしょ?」
「それ、胡蝶さんから聞いたの?」
「そうだよ」と言えば照れたのか彼の頬が赤くなった気がした。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時