61.血気術 ページ12
「霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞」
「血鬼術 河童憑き」
垂天遠霞で放った突きは瞬時に鬼が甲羅の中に隠した本体を捉えるとはなかった。
この鬼の体は河童というより、亀に近いようだ。
甲羅を貫通はしたものの完全に割ることはできなかった。
十二鬼月でもないのに意外と強度がある。
そこに体を仕舞われると首が狙えなくて厄介だ。
体を仕舞われる前に首を落とすか、硬い甲羅を破るしかない。
ならば…と次の攻撃を考えていた時、ふと違和感を覚える。
さっきの血鬼術はどうなった?
「霞の呼吸───!」
次の攻撃に転じようとしていた体を直前で止める。
「Aお姉さぁん!」
「A!?」
鬼の前に突然Aが立ちはだかった。
「無一郎くん…」
「何してる!?鬼の前に出るな!!」
叫んでも彼女はその場を動かない。
「ごめん…っなさい、でも体が…動かない」
抵抗しているのか苦しそうに顔を歪めている。
「…何だ?」
何が起きてる?
「ククククッ」と鬼が笑う。
「お前、コイツが大事カァ?」
「だったら何?」
「お前がイケナイんだゼェ?恐怖に染まった女を川に引きずり込む俺の楽しみを邪魔しやがっテェ」
「趣味悪…」
「うるせェ!今のコイツはナァ、操り人形みたいなもんサァ…お前にコイツが斬れるかナァ?」
そう言うと右腕で後ろから彼女の体を自分の方に引き寄せて盾にする。
そのまま彼女の足が地面から完全に浮いて、締め上げられていく。
「うっ…」
「A!」
「さぁどうする?俺の血気術はナァ、かけたやつの体の自由を奪って操れるんだゼェ?」
「まさかさっきの血鬼術は…」
「そうダァ!コイツにかけタァ!!」
ぎゃははははっと鬼の笑い声が響く。
だからAは鬼の前に飛び出したのか。
「時間が経つほど、抵抗すればするほど体力が奪われる。終いには記憶も失くなる。そうなれば、俺を倒さない限りコイツは永遠に記憶を無くしたままダァ。自分の意識では何もできない人形の完成ダァ」
得意げに鬼が言えばAの小さい声が聞こえてくる。
「い、や…!」
「アァ?」
「みんなのこと…無一郎くんのこと、忘れ、たくないっ。……もう忘れるのは、いや………」
体に冷や汗をかきながら、ぽろっと彼女の目から涙が溢れ落ちる。
腹立たしくてぎゅっと刀を握りしめた。
ここで鬼を逃がしたら被害者が増える。
人がまた犠牲になる。
一か八か、叩き込んで確実に仕留めなければ。
そうとまで考えていたのに。
心がざわつく。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時