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私は再び考えをまとめ直します。
彼に伝えたかったことはただ一つですが、些かややこしくありますのでざっと説明すると誤解を招く恐れがあるのです。
「そうですね…。脱獄、しそうになりましたよね?その件です」
「あぁ…あまりにも職員が植物または植物由来の食物を僕に無理矢理渡してくるからね、頭に来てしまって」
照れ隠しとでもいうように頬をかき、にへらと笑って証言しました。
確かにこの件に当たって職員が悪という観点も存在しますが、
異常生物による軽率な脱獄というのは甚大な被害を引き起こし、ひいては破滅へと導いてしまいます。
ましてや彼が脱獄することによって連鎖的に反応してしまう存在はアベル。
私は死者の魂をとって美しき仮面へと昇華させているのですが、彼は魂ごと全て壊してしまいます。
仮面一つ、魂一つ残せないような殺害方法はただの破壊でしかありませんから。
私のように残してあげるのでしたら良かったのですけれど。
「あなたは逆上しやすいですものね。そうなるのも理解しがたいわけではありません。
…ですが、連鎖的にアベルも起きることになってしまいますので止めてください」
カインさんに目をそらさせずに、威圧して言い切りました。
目には目を、歯には歯を、激情には激情を。
同じ異常生物だからといって同列である必要もなけれぱ、私が下手に出る必要もありません。
邪魔であれば壊す、馬鹿であれば利用する、野心は使い潰して打ち砕く。
これが私(幻想書架のダンタリオン)というあり方ですので、カインさんも邪魔なら壊してしまいそうになります。
「ご、ごめんね」
カインさんは乾いた笑みで謝罪していますが、瞳の奥には恐怖が隠れていることが目に見えてわかります。
可哀想に。
「構いませんよ。どのみち私の脅威はアベルですので」
「弟が、すまないね」
カインさんが申し訳なさそうにおずおずと言います。
「兄として責任を果たしてください。…以上です」
「わかっているとも。今度は植物以外の何か、持ってきてくれる?」
かと思えば期待と羨望の目でこちらを見てきますので、切り替えの早さは彼のようにあるべし、なのでしょうか。
「生憎私も収容されている身ですからね。記入前の紙でよければ持ってきますよ」
「…話聞いてる?」
「えぇ、とっても」
やや力を込めて長くため、皮肉を込めて返します。
満面の笑みを浮かべた私は、監視室から出て職員に連れられ支部をまた見て回りました。
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菫青(プロフ) - 紫清さん» まず、この世界観に惚れてくれたことが作品の親として本望でした。彼女の在り方や文章は私の好みも含んでいたのですが刺さったということで大変嬉しい限りです。こちらこそコメント、ありがとうございました。 (2019年10月19日 20時) (レス) id: 62f559e9d8 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 急にコメント失礼します、偶然この作品を読ませて頂いたのですが、謎の多く少し不気味な世界観とそれを反映した文章、そしてダンタリオンさんの在り方に惚れました……! これからも陰ながら更新楽しみにしております。素敵な作品、本当にありがとうございます。 (2019年10月19日 20時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
菫青(プロフ) - シャル@如月唯奈さん» 私個人の趣味を大きく詰め込んだ設定、文章でしたが読みやすいようで何よりでした。こちらこそ参加させていただきありがとうございます。 (2019年9月25日 20時) (レス) id: 62f559e9d8 (このIDを非表示/違反報告)
シャル@如月唯奈(プロフ) - イベント参加ありがとうございます!早速読ませていただきました。文章も好みでとても読みやすかったです(^-^)この作品の設定もイイ(笑)更新頑張ってください! (2019年9月24日 22時) (レス) id: 0214723abe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菫青 | 作成日時:2019年9月21日 21時