君と描く物語１２

＃５８５ ページ35

天元side

生徒達と一緒にグラウンドに出ると、晴れ渡った青空を背景に
今年も見事に咲き誇る桜の木が出迎えてくれる

実弥｢お、A組も終わったかァ｣

天元｢おう。何だ、うちが最後か？｣

行冥｢あぁ｣

天元｢待たせちまったか…すまねぇな｣

義勇｢問題無い。桜はそんなに急いで散ったりしない｣

杏寿郎｢うむ！それにしても、今年も見事に咲いたな！｣

小芭内｢一昨日まで蕾もあったのに…本当に不思議な木だ｣

既にグラウンドに出ていた他の教師達の元へ行くと、生徒達を見守る様に咲くその木に視線をやる

天元｢あぁ。毎年、直前までどんだけ天候が荒れてても…不思議と卒業式には満開になるよな…あの木

今までも、何百人…何千人と見送って来てくれたんだろうな｣

カナエ｢あの木は、この校舎よりも歴史のある木だから…

ずっとずーっと昔…この学園が、まだ学び舎になる前から…命懸けで戦う人々を見守って来た…｣

聞いた事がある、その言い伝え

その昔、大正時代に実際にあったという鬼と戦う剣士の話だったか…

その剣士達の健闘と、平和な世界が訪れる様にと願いを込めた木なんだとか

俺は別にこの学園の生徒でもなんでもないが…
確かにあの桜の木を見ていると、何でか懐かしい気がして来るんだよな…

杏寿郎｢そうだな…そして、俺達も見送られた一人か…｣

天元｢…？どういう意味だ？｣

杏寿郎｢あ…いや！何でもない、独り言だ！｣

カナエ｢ふふ…皆、最後のホームルームお疲れ様

それぞれ生徒達に伝え残した事は無いかしら？｣

胡蝶のその言葉に、各々 自分が担任を務めたクラスの生徒達に目を向ける

そこには嬉しそうに笑い…所々には陽の光に当たり輝く涙も見えた

天元｢あんな幸せそうな顔してるあいつら見たら…おめでとうしか浮かばねぇよな…｣ｸｽｯ

実弥｢そうだなァ｣

行冥｢皆…すっかりと頼もしい表情になって…｣

杏寿郎｢俺達の役目もここまでだな！｣

小芭内｢後 俺達に出来る事があるとすれば、この先も実りある日々になる様に祈る事くらいだ｣

教師陣は皆ほっとした表情をして、口々そう言った

カナエ｢そう…じゃあ、私達は職員室に行きましょうか｣

俺達は余韻に浸る暇も無く、直ぐに会議の為に移動を始めた

杏寿郎｢…良かったのか？彼女に本当の気持ちを伝えなくて…｣ｺｿｯ

天元｢………いいんだ…あいつ幸せそうな顔してたから｣

あの日、Aの母親からされたもう一つの願い事

忘れた訳じゃない…だけど……

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