君と描く物語１２

＃５６２ ページ12

無一郎side

先輩が何を言おうとしてるかなんて、何となく察しがつくよ…

炭治郎の妹から、僕が居ない間に何度か先輩が僕を訪ねて来たって聞いた

それに、メッセージでの文面も…
核心は突かないけど雰囲気がいつもと違うし


そして何より、今見せるそんな真剣な顔…


先輩がどんな思いで僕にそれを伝えようとしてるのかもわかってる…

わかってるからこそ、その口から まだその言葉を聞きたく無くて
先輩の言葉を遮る様に包み込んだ


無一郎｢…お願い先輩……もう少しだけ、一緒に居させてよ｣

A｢…っ……でも…｣

無一郎｢せめて先輩の受験が終わるまで、傍で応援させて…｣

仮のお付き合いなんて、随分と保険を掛けた逃げた真似をしたと思った

でも、今だったんだ…先輩の隙に入り込むには


ほんの一瞬の思い出になると分かっていても、それでもいいと…貴方の傍に居たいと願ってしまった

手を伸ばせば届く距離にいる貴方を、もう独りにしたくない…
あんなに辛そうに涙を流す姿をもう見たくないって


今 強引にも頑張れば、貴方を守れる存在になれるのでは無いかと
僕を…僕だけを見てくれるんじゃないかと期待した


現実はそんなに甘くは無かったけれど……



無一郎｢先輩の唯一無二にはなれなかったけど、自分が決めた事だけは守り抜かせてよ…｣

せめて…貴方が目の前にいる限り、独りにしないと誓った事だけは…

A｢…無一郎くん……｣

腕を緩めて先輩の顔を覗き込むと、先輩は真っ直ぐに僕を見詰めてて
少し潤んだ瞳に、情けなく笑う僕が映っていた

無一郎｢……さすがにこの時期の夜は冷えるね

もう遅いし、家まで送って行くよ。帰ろう？｣

A｢…うん｣

僕は先輩の手を引いて、ゆっくりと…先輩との時間を惜しむ様に歩いた



先輩を家まで送り届け、自分も家に着き部屋に入る

ｶﾞﾁｬ

有一郎｢帰ってきたのか無一郎｣

無一郎｢兄さん…何で僕の部屋に居るの？｣

有一郎｢課題の出てる教科の資料集忘れて来たから借りに……お前、こんな時間にどこ行ってたんだよ｣

無一郎｢ちょっとね｣

有一郎｢…A先輩って人ん所か｣

無一郎｢…！よく分かったね｣

有一郎｢お前が自分から出向いて行くのも、そんな情けない顔するのも…そのA先輩って人に対してくらいだろ｣

無一郎｢…何でもお見通しなんだね｣

有一郎｢俺には理解出来ないな…確かに俺達を見分けられるのは驚いたけど、それくらいだろ｣

無一郎｢…あの人は……｣

＃５６３→←＃５６１

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す