君と描く物語１０

＃４７２ ページ22

天元side


気丈に振舞った…まるで迷いが無い様に
それが本心だと表情や態度で語る様に……


扉が閉まる、その瞬間まで…は……



ｶﾞﾗｧ……ﾊﾟﾀﾝｯ


天元｢……っ…｣ｸﾞｯ


扉が閉まってすぐ、俺は足早にその場を離れた

宛もなく…とにかくその場から離れたかった
今さっき自分の口から出た言葉を、勢い余って撤回してしまいそうになるから…


Aの…あんな顔初めて見た……

俺の言葉を聞いて…ただただ、現実に打ちひしがれて言葉を失い
一寸先の闇を目の当たりにした絶望感


俺の大好きな笑顔など、どこかへ置いてきてしまったかのように面影も無く


今の俺の言葉や行動で、どこまであいつに伝わったのかは分からない

少なくとも言葉にした情報は間違いなく伝わっていて…良くて、その上 俺がAの自信の無さに気が付いている事も察したかもしれない


でも…少なくともその先は……


今、自分への肯定感が皆無に近いAにとって
俺から切り出された別れは 疑うに足らない出来事で、寧ろ こうなって当然とすら思ってるかもしれない…


…駄目だ、A……頼むからそこで止まらないでくれ…

進め、これをきっかけにちゃんと……っ
俺の存在抜きで見つめ直した先に有る場所へ…！


じゃなきゃ……そうでなきゃ俺は…っ


天元｢……くそ…っ！｣ﾀﾞﾝｯ！！


人気のない場所で、校舎の壁に強く打ち付けた左手の拳がじんっと鈍い痛みに包まれる

…こんなの比じゃない程に、今あいつの心は痛めつけられてるのかな…


遠くにはグラウンドから聞こえる運動部の掛け声が耳を掠める

いつもと変わらない、春の終わりを感じる季節の
誰の気にも止まらない程のなんて事ない校内の放課後の時間


俺達にとっても、いつもと変わらない日に…なればよかったのにな…


放課後、バイトの無いAを笑顔で迎えて
準備室に移動して、優しく触れ合うようにお互いを確かめ合う

他愛も無い話をして何気無い一日の終わりを過ごす

そんな…なんて事ない日々に…



でも もう、どんなに望んでも戻れない

お前の元にも…今までの暖かな場所にも、これまでの日々にも

大切な物を守る…
それは言葉にするには簡単で、でも余りにも難しい


俺にはこんなやり方しか思い付かなかった

俺がお前の背中を押せる、最後のチャンスなんだ…



A、愛してる

もう二度と…その手に触れられなくても




この日を境に俺達は…出逢ってすぐの頃と同じ
ただの"教師"と"生徒"に戻った

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