そのままの君が好き【短編集】 (ページ6)

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江口拓也ページ6

【江口拓也×先輩×片想い】

職業:女優

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#江口side

羽多野さんが出演する朗読劇を観に来たので、楽屋まで挨拶に伺おうと思い、関係者出入口へ向かう。扉の前で知った背中に出会った。昨年、舞台で共演したAさんだ。声をかけようと思ったけれど、舞台が終わってから連絡も取っていなかったし、公演中と同じように「Aさん」と呼んでいいものかどうか迷い、躊躇う。すると、Aさんがこっちに気づいて振り向いた。

『ぐーぐーだ！久しぶり！』

公演中につけられたあだ名で呼ばれ、空気がぱっとあの頃に戻る。

江口「お久しぶりです」

『毎日忙しそうだねぇ。ちゃんと寝てる？』

江口「寝てますよ、大丈夫です。Aさんこそ、舞台に引っ張りだこじゃないですか。ちゃんと休めてます？」

『どこでも寝れるのが、私の特技だから』

そう言って笑いながらピースサインをする。やっぱりこの人の笑顔可愛い。

スタッフ「もうすぐお客さん出てきちゃうので、どうぞ」

スタッフさんに促され、楽屋へ向かう。Aさんと別れて、それぞれ自分の関係者へ挨拶をして回った。
SNS用に羽多野さんと写真を撮っていると、

『それじゃあ失礼します』

というAさんの声が聞こえた。僕も慌てて追いかける。いろいろ考える前に体が動いた。
次、いつ会えるかわからない。今日だって、たまたま会えただけじゃないか。今動かなかったら、ずっと何も変わらない。

江口「Aさん！」

『んー？ぐーぐーももう帰る？』

江口「連絡先教えてください」

『え？』

我ながら必死すぎる。これは引かれた。

『いいよー。LINEで大丈夫？』

江口「え？あ、はい！」

Aさんはいつもの笑顔でスマホを取り出した。

『どうするんだっけ？』

操作が分からないらしく、僕に画面を見せながら隣に立つ。結局ほぼ僕が操作して、LINEを交換することに成功した。

『ありがとう』

ぱっとAさんが僕を見上げる。近い！
近い、と思ったのはAさんも同じらしく、少し顔を赤くして僕と距離をとった。

江口「あの、よかったら、今度ご飯でも行きませんか？・・・2人で」

精一杯の勇気を振り絞って、そう言うと

『うん』

と小さな声が返ってきた。