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同じ頃、彩希は自宅の大きな和室で60代の男性に見守られながら、花を生けていた。村山家は江戸時代から続く華道の総本家であり、彩希は第37代家元の村山康吉の一人娘であった。そんな一人娘の宿命は親の後を継ぎ、村山流を後世に残していくことであった。
彩希は父の前で指先に集中をし、花を生けていたが、今朝方の奈々に言われた一言が頭をよぎった。
『ほんっと性格悪い…』
その一言が彼女に心の揺らぎを与えたのか、生けている最中、父から叱咤を受けた。
「もっと花に集中しろ」
「あっ…、すみません…」
「お前がそんな状態では、花も輝かない。花に失礼だ」
「申し訳ございません…」
父と娘という関係ではあるが、世に言う親子らしいことは何一つしてもらったことはなかった。学校の運動会やイベントは母と使用人が来ており、食事も一緒に食べるのは年に数回。まともに会話できる唯一の空間が生け花の指導の時間であった。
「生徒会などに現を抜かしているから、そういうことになるんじゃないのか」
「いえ、決してそんなことは…!」
「お前が生徒の見本となるよう心がけると言ったから許可したものの、花に集中できないようであれば、辞めさざるを得ないな」
「申し訳ございません…。以後気をつけます…」
「今日はここまで」と一言残し、その場を立ち去った父の背中を見送った後、自分の生けた花を見つめ、彩希は一つため息を溢した。
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作者名:神楽リュウ | 作成日時:2019年10月17日 7時