36．深海のマリンブラック。 ページ36
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「行かなくても行ってください。先生はお仕事でしょ。」
「修学旅行は遊びじゃないよ？ちゃんと学習。お勉強。」
平行線な淡々としたお互いの主張が、狭い部屋で反響する。
親のことは、考えたくないのに
私の脳内でマイナス感情を増幅させていくようで怖い。
「だってみんな、親にちゃんと同意もらってるのに。」
「……。」
「きっと、楽しんでとねとか言ってもらってるのに。」
「私は1人寂しくそれを書いて、出して。修学旅行の思い出を話す相手も、お土産を買う相手もいないんです。」
先生は私の言葉に頷く訳でもなく、ただ一言ずつ聞いて
火をつけた煙草なんてすっかり忘れて、じっと私を見据える。
普段からあまり光の入らないその瞳は、暗くて深い海みたい。
でも冷たくない。
深海ほど冷たくない。
むしろ暖かい。
集めてきたそれの1番上には、白紙の私のプリント。
先生はそれを取って、胸ポケットからボールペンを出した。
「俺言ったよ。」
「なにがですか。」
「高校生活楽しんでって。」
おもむろに保護者欄に私の母の名前を書いた。
「母の名前なんてよく知ってますね。」
「おれの大事な子捨てた憎たらしいやつの名前とか忘れられないでしょ。」
さらっと、"大事な子"と言った。
私が母に向けられない怒りや憎しみを代わりに口にしてくれた。
それだけでも、誰かに気にしてもらってるだけで嬉しくて
その誰かが先生なのも、私にとっては奇跡みたいで。
どんどん目頭が熱くなる。
「修学旅行も楽しんで。はい、あと印鑑押すだけ。申込書は後でいいから、同意書先に出してね。」
ヒラっと私にプリントを返した先生は、
「なあに泣いてんの笑」
とまた私の頭を優しくあやす様に撫でた。
「まー本当なら、大野智って書きたいかも」
「は？」
やっぱり少し変わった思考回路。
涙も引っ込むくらいの、渾身の"は？"だった。
「でも俺はAの保護者じゃないんだよねぇ、かなしい！」
「……私、先生が保護者は嫌です。」
なんでだよ！と笑いながらツッコんで、また私の頭をポスポスと撫でる。
ほんとに、先生には保護者になんかなってほしくない。
もし今の、私への気持ちが親心だったとしても、
私は先生の子供とかそういうんじゃなくて、
もっと他の関係でありたいから。
頬を掠めた消えかけの煙草の火が、
それ以上言っちゃいけないと歯止めをかけるかの如く、ほんの少し目に染みた。
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憂(プロフ) - みやさん» みやさん。コメントありがとうございます。こちらの私情であるにも関わらず応援して頂きまして、本当にありがとうございます。これからも先生と主人公ちゃんをよろしくお願い致します( •̥-•̥ ) (2022年12月1日 9時) (
レス) @page40 id: 39a6e0a5de (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - 憂さん、はじめまして せつと申します。人生最大ゴタゴタの中素敵なお話を紡いでくださりありがとうございます。スローでもよきよき♪待ってますので 憂さんのペースでどうぞ。いい子で次のお話待ってますね。 (2022年12月1日 9時) (レス) @page40 id: a88f73c135 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：憂 | 作成日時：2022年11月4日 3時
