１２ ページ12
俺を主役にして、映画を撮りたいて。
歌手の話やねんて。
その主題歌は、
俺の作った歌を、
俺の声で吹き込んで、
レコードにするて言う。
日々の暮らしの中で、
すっかり、忘れてたけど・・・
戦争の前、じいちゃんが、
口癖のように言うてたっけ。
『若い頃は俺は歌手になりたあてな。
夢があったんや。
レコード出して、
全国を飛び回って、歌で、
みんなを元気にする。
親に反対されて、
石炭屋を継いだけどな、
章大が、叶えてくれたら嬉しいなあ』
俺を膝に抱いて、
ギターを弾きながら、
その話をしてる時のじいちゃんの目は、
空のお月様より、
あったかく輝いてた。
「蒔田さんがしつこおてなあ。
場末のキャバレーの歌い手なんかて、
なんぼ断っても、
いっぺんでええから、聴きに来てくれて。
けど、君を見つけられて、幸運やったわ。
あん人のおかげやなあ」
驚きなんてもんやなかった。
蒔田のおっちゃんのこと、
俺は、殺しても殺したりひん思ってた。
罰が下ったように、
すぐ心臓患って、
殺意はうやむやになっていったけど。
あの人が裏で俺を売り込んでくれとったて・・・
すぐには信じられへん。
A姉ちゃんが久しぶりにはしゃいでる。
台所の土間で、料理しながら。
俺を振り返って。
「章ちゃんは、やっぱりすごいね。
姉ちゃん、鼻が高いわ」
ほんまに幸せそうに笑うねん。
こうしてると昔の姉ちゃんに戻ったみたいや。
A姉ちゃんの作ってくれたご馳走。
お造りに煮物、
味噌汁とサラダ。
それに金色に光る卵焼きまで。
昔はすいとんぐらいしか食べるもんなくて、料理の必要もなかったなあ。
その日暮らしでいつも飢えてたあの頃のこと、
ふと思い出す。
「今日はお祝いやから。
たくさん召し上がれ」
A姉ちゃんは、
自分は食べずに、
俺が食べるんを幸せそうに見つめてる。
最近、こういうことが多いねん。
「食欲ないん？
姉ちゃんも食べえや」
「私はいいん。
章ちゃんが食べるんを見てるんが嬉しいねん」
最近、痩せてもうたな。
綺麗には変わりないけど・・・
「あかん。
ちゃんと食べんと、
身体壊してまう」
無理矢理、箸で煮物つまんで、
姉ちゃんの口元に運んだった。
一口噛みしめてから。
「章ちゃんも生意気言うようになってんねえ」
そう言うて笑う。
今日はほんまに、
おかしいなる前の、
優しいて、可憐な、
俺の自慢のA姉ちゃん。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 443人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みき(プロフ) - やすくんの君がため。また読みにきちゃいました(//∇//)色んなやすくんをfoolさんの作品で読ませて頂けて幸せです！ (2020年11月20日 21時) (
レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 焼き直し、ありがとうございます。新しい作品として読めました！切なくて、でも2人の愛をすごく感じました！ (2019年11月7日 16時) (レス) id: ad46af1069 (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - 焼き直しで初めて読んだので、私にはありがたかったです。切ないけどハッピーエンドで良かった！ (2019年10月30日 22時) (レス) id: a8bccc7358 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 焼き直し、お疲れ様です(*^^*) 新鮮な気持ちで読ませて頂いてます♪ (2019年10月28日 21時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
ぷーかは年中無休。|´-`)(プロフ) - すばるくんの話、感動で泣いてしまいました…とてもいい作品でした… (2018年3月26日 23時) (レス) id: cb0b6d334f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：fool x他1人 | 作成日時：2017年9月18日 6時
