42話 ページ47
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「ハイター様、お客様ですか」
「お客様ではありませんよ。今日からこの家に住む事になったAさんです」
『はは、どうも……』
控えめなノック音と共に部屋に入って来た紫色の髪の少女は困惑した表情を浮かべた。初対面だけれど、フェルン可愛いなあと和むのも束の間、私は苦笑いして彼女に微笑みかける。彼女が困惑するのも無理はない。私がハイターさんの家に住むだなんて、数秒前に決まった事なのだから。
始まりは数分前に戻る。
『…というわけなんです』
「そうですか。…では、これから貴方はどうするつもりで?」
『戦えない一般市民だったので、魔物が出ない土地で暮ら…でも、この世界の一般常識と知識を知らないので生きていけませんね…』
私は正直に違う世界から来た事をハイターさんに伝えた。最初は驚いたような顔をしていた彼だったが、終始静かに話を聞いてくれた。
魔法や魔物の概念が無い世界から来た事、逆にこの世界から私がいた世界に来た住人がいる事。「葬送のフリーレン」の漫画についてはややこしくなるので一切話さない事にした。
そして全てを話し終えた今、私は冷や汗をだらだらと流していた。しまった、完全にやらかした。これから先の事なんてこれっぽっちも考えていなかったのである。
『……図々しいのは承知の上でお願いしますが、ここでの生活が慣れるまで、この家で家政婦として働かせて下さい』
私の顔が真っ青だったのだろう、「大丈夫ですか?」と心配され、少しの沈黙が流れた後に私は深々と頭を下げた。
「Aさん、顔を上げて下さい」
『…お願いします。こんな突飛な話を聞いてくれる方、他にいないと思うんです』
「おや。他にもいるかもしれませんよ」
『………え?』
私は内心驚いて顔を上げれば、微笑したハイターさんと目が合う。穏やかな、こちらを全く警戒していない姿。最初のヴィアベルさんとは大違いだ、と一瞬、思う。
「私の他にもう一人、この家に住む子がいるのです。貴方がいれば、その子も喜ぶと思います」
『…え、』
「あと、貴方は家政婦ではなく魔法使いに向いていますよ」
『何もやった事ない私が、ですか』
「はい、強い魔法使いになるでしょう。それに最初から私は貴方を保護しようとしていたので、ここに住んでもらって構いません」
『いやその、私の素性とかは…』
「貴方は悪人に見えません。今はそれで十分ですよ」
そう言って笑うハイターさんに、私も安心して少し笑ってしまった。

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めめめ - 振り回される主人公のコメディとヴィアベルの性格や言動の塩梅が素晴らしくて、読んでいて楽しいです!ヴィアベルの小説他に全然ないので、素敵な作品をありがとうございます🥹続編も出ていてワクワクです✨これからも楽しみにしてます!応援しています!! (10月31日 13時) (レス) id: ead56410d0 (このIDを非表示/違反報告)
めめめ - 作品内で主人公はヴィアベルにしっかり振り回されるけれど、故意にはやってないしなんならかなり直接的に優しい言葉をかけていて…私の中でヴィアベルは好きな子に対して誠実で振り回したりしない人って解釈だったので、あまりにも解釈一致すぎて感動しました…。 (10月31日 6時) (レス) id: ead56410d0 (このIDを非表示/違反報告)
めめめ - 最近ヴィアベルにハマった者なのですが、彰也さんの書くヴィアベル本当に沼で、、特にヴィアベルの言葉遣いの絶妙さと、言動が原作内での性格に忠実なところ(すぐ信用せず一度疑っていたり)が凄いです…! (10月31日 5時) (レス) id: ead56410d0 (このIDを非表示/違反報告)
白黒名 - 続編もすごく面白いです!フリーレンの物語の世界の中でこれからどうなるんだろうと毎話わくわくドキドキしながら読ませていただいています!これからも頑張ってください! (10月22日 22時) (レス) @page49 id: ee8aa02a3c (このIDを非表示/違反報告)
綾兔 - 彰也さん» 消化ありがとうございます!やっぱり毎話毎話ヴィアベルと夢主の掛け合いが最高です!尊敬してます!それと、完結おめでとうございます!この小説は本当に大好きで、毎回楽しみにしてました!他の作品も頑張ってください!応援してます! (2024年5月7日 21時) (レス) @page35 id: 837e222f3a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彰也 | 作成日時:2024年2月3日 0時