【名探偵コナン】消えた捜査官4【降谷零】

150 -第5章- Lose-追憶編- ページ33

ー数年前ー


私が信じた正義は、一体何だったのだろう

「ただいまー！駅前でケーキ買ってきてあげた…よ…」

久々の帰宅だった。
卒業式を終え、その足で駅前に向かい、過ぎてしまった弟への誕生日ケーキを買った。
卒業後の束の間の休息も、数日すれば、それぞれが警察官としての第一歩を踏み出し始める事になる。

扉を開ければ、家族が待っている筈だった。

「……お母さん？」

蒸せ返る様な血の匂い、小説でよく見るこの表現。
警察官としてまだ現場経験の無い自分は今までピンとこなかったが、嗚呼あの表現は随分と的を得ていたのか、と他人事の様に思う。

異様に静まり返った綾瀬家には
見るからに、招かれざる客達が居た。

「…誰、ですか貴方達…。その血…」

「待ちくたびれたよ。
てっきりあのまま真っ直ぐ家に帰ってくるかと思っていたのに。」

見覚えのない顔触れの中に、ただ1人だけ。
その男は血に塗れてなどいなかった。
上等なスーツを纏い、黒い革の手袋を嵌めている男にだけ、Aは見覚えがあった。

「貴方…さっきの…」



『続きまして、本日ご臨席賜りましたご来賓の方より、ご挨拶を頂戴致します。
現在は警察庁より警視庁へ出向されている、鮫島公康警視長です。
よろしくお願い致します。』

『えー、ただ今ご紹介に預かりました鮫島公康と申します。』



「……やれ。」

6ヶ月間、鍛錬を重ねた武術は混乱しきったこの状況では、何の意味も成さなかった。
薄れゆく意識の中で、男が鈍く光る凶器を父の右手に握らせているのが見えた。

閉ざされた目蓋の裏に、かけがえのない友人達を描いた。


それぞれ違う道の先にもあるのだろうか
それぞれの正義が


私が信じた正義は、正義ではなかった





『人の命は尊い。
君達の職務は何よりもその命と平和を守る事だ。』

(……ああ、悔しい。)


大人は皆、嘘つきだ。

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