【怪盗キッド】奇術師と道化師 捌

第３３４話 ページ5

「それなりに人がいるな」
「あんだけ報道すれば気になる人はそこそこいるでしょ」
「寺井は車を駐めてきます。お二人はお先に」

私と快斗は車を降り、本堂に向かった。麒麟の角があるお堂はそこそこ人がいたため、まずは本堂からという考えだろう。

「……警察はいないみたいだけど、工事の業者みたいなのはいるね」
「日曜なのにな……相談役も、金バラまいて色々仕掛ける算段なんだろ」

本堂について、快斗は人目も気にせず上がり込み、廊下を歩き出す。立ち入り禁止ではないが、あんまり堂々と歩く人はいない。かなり目立つがついていく。部屋を一部屋ずつ軽く見て回るようだ。

「電気設備は……こっちに一括されてんだな。恐らくあのお堂のほうも」
「ここ勝手に入っていい部屋なのかね」
「大丈夫だよ。いざとなったら『妹が迷子になって』とか適当なこと言うし」
「迷子になる年齢じゃないわ」

一応小学校高学年くらいには見えるはずなんだから、と付け加える。すんませんねと適当に謝られ、他の部屋に向かう。『妹が迷子になって』の部分が少し気になった。もしーーもし仮に青子と来ていたら『彼女が迷子になって』なのだろうか。

もし私が19歳の姿だったら『彼女が迷子になって』と言ってくれるのだろうか。

なんて、考えてしまう。……馬鹿馬鹿しい、思い上がるのも大概にしろ。残念ながら私は快斗の彼女ではないし、快斗も私の彼氏でもない。望んでも望まなくても。今はただの黒羽快斗と琥珀Aなのだから。ああそうか、黒羽快斗と琥珀Aじゃなくて、怪盗キッドとその手下、と思えばこんな変な勘違いはしない。

変に期待しなくて、済む。無駄に自惚れなくて、いい。
一人の人間として、ただの登場人物としてここにいればいい。

「おーいA。行くぞ？」
「ああ……ごめんなさい、考え事してました」
「らしくねえな」
「そんなことないです」

なんだか今日の私は諦めが悪く、もしも私が青子だったらこの手を引いてくれるのかもしれないな、と思ってしまう。だが残念ながらそんな淡い期待を抱けるほど若くねえーんだわ、と否定して手をポケットに突っ込んだ。若くないし、捻くれている現代のクソガキだ。

本堂を出て、次は麒麟の角が置いてあるお堂に向かう。お昼時が近くなって人は少しまばらになった。寺井さんと合流し、足を進めた。本堂を見たときにも思ったが、それほど綺麗な寺じゃない。麒麟の角が置いてあるお堂も言ってしまえばオンボロな作りだ。

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