【怪盗キッド】奇術師と道化師 捌

第３５９話 ページ30

シェリーは一瞬眉間に縦皺を寄せた。

「流れてると思う……わよ」
「あらあ。運が悪いと組織の誰かが見てるかもね」

少しだけ思わせぶりに言ってみるとシェリーは目を見開いて「ーー貴女、まさか！」と私の袖と掴んだ。

「冗談だよ……仮にそうだとしたら、私が適当にごまかしておいてあげるから。それで今回の件はチャラにしてくれない？」
「なに、それで、優位に立ったつもり？」
「滅相もない……」 私はバツが悪そうに視線を泳がす。
「とにかく、何かわかったら言いなさいよ。こっちは工藤くんが気絶させられて大変なんだから」

はいはい、とやる気のない風に返事をしてVTRを見た。
しかしどこまで意見していいものか……何か言わないとシェリーにどやされそうだし、言いすぎると中森警部ーー怪盗キッド、いやーー快斗を不利にさせてしまうし。
めんどくせえ立ち位置だなあと息をつくと今度は反対の袖を掴まれた。

掴んでいるのは、シェリーじゃない女の子。確か名前はーーなんだったか。

「……ね、ねえ哀ちゃんのお友達さん」
「ん？ あ、なに？ えっと」
「私は歩美。吉田歩美」
「Aだよ。琥珀A」

琥珀を盗むんだし、名字は琥珀でいいや。下の名前は割れてるしAのままで。なんて名乗ったらうっかりガチの本名になってしまった。ああやばいやばい。なんだか中森警部から視線を感じる。
そりゃそうか。そんなつもりなかったんだよ、快斗と心の中で謝る。

……別に詫びる意味はないか。

「Aさんってもしかして」

歩美ちゃんは少しためらってから私の耳元で小さな声で囁いた。

「歩美達と会ったことある？」
「……ないと思うよ」

否定するのに時間がかかってしまった。
子供の直感だか、女の勘だかわからないが、すごいなこの子は。
私は一歩だけ歩美ちゃんから離れる。

「本当に？ じゃあお兄さんはいるの？」
「兄？」
「うん……久遠伸一っていう人に、Aさんすごい似ている気がして」
「誰それ、知らないな」

いや〜正解です。と心の中で拍手する。ほんと恐ろしいな。
確かに久遠伸一の時は変装、男装といっても顔はほとんど素顔だ。
いやはやすごい、すごいと感心しているとシェリーがわざとらしく笑みを浮かべた。
……なんだかみんな可愛くないななんて思ってしまったことは内緒だ。

「汝ら……ちゃんとVTR見てるか？ ……もう一度最初から見直した方がよさそうじゃな」

VTRは巻き戻り、画面の中から鍵を打ち付ける音が聞こえた。

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