犬猿の仲から恋人に至るまでのはなし。【オリジナル】

1時間目　犬猿の仲 ページ2

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唐突ではあるのだが､私には嫌いな男がいる｡
その男は勉強も運動もできる､所謂文武両道というやつだった｡

　

一方私は､特筆するほどの頭脳も運動神経もあるわけではない｡
ただ自分で言うのもだが､要領がいい方だったとは思う｡

授業では目立った発言はしないが､大概テストはヤマを張ったところが出る｡
更に言えば教師との仲もわりかし良好だったので､成績にはそれ程困らなかった｡

運動はまあ上記の通り人並みではあった､が｡
保健体育の成績というのは運動神経のみで決まるものではない｡

つまり何が言いたいのかというと､
私は完璧な文武両道であるその男とは違い､”成績だけはいい”女だった｡


一方男はというと何をするにしても目立っていた｡
授業中に挙手をし､発言しているのはいつ見ても奴だ｡

休み時間には何やら小難しそうな本を読んでいるし､
昼になると教師に質問でもしに行くのか､ノートと筆箱を持って教室から出ていくのをよく見かけた｡

　


――――息が詰まりそうだ､

　

奴の生き方を見ているとつくづくそう思う｡
それと同時に､根本的に私はあの男とは合わないのだろうな､とも｡


　
＊

　

「……佐藤､世界史Aは」


忌々しくも奴と私は同じ学級委員であった｡

高2の春｡委員会決めの時｡
黒板に書かれた”学級委員”の欄に奴以外の名前が書かれることはなかった｡
私が立候補したのだってほぼ成績のためである｡今思えばこの選択は明らかに失敗であったと思うが｡

あの男は偏屈なきらいがあった｡
何より人とのコミュニケーションの取り方が絶望的に下手糞だったのだ｡

今だってこうして､委員会へ向かう途中の廊下を二人で歩いているわけだが
話す内容はこの間の定期テストの点数である｡奴の頭には趣味や娯楽の文字はない｡

　

「……96点」

「……ふん､俺は98だった」

　

お わ か り い た だ け た だ ろ う か 。

奴が嫌われる所以は､私が奴を嫌う所以は､こういうところである｡

クソ､お前の話す内容はそれしかねえのか｡
頭いいなら女との会話の仕方くらい勉強しろ｡

　

「……クソ､日本史､日本史Aは」

「……96だ」

「やっったざまあみろこっちは100じゃ」

「最初から自身の勝ちが分かってて言ったのか､性格の悪い女だな」

「お前が人の性格に対してとやかく言うんじゃねえ」

　

まあ､ここまで言っておいて奴に張り合ってしまう私も私なのだろうが｡

奴――白川奏多と私は､犬猿の仲である｡

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