曖昧なモルヒネ

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「普段はなんて呼ばれてる？」

「ヒロとかミツとか、そんな感じ？」

「それって、今までの恋人に言われてきたわけ？」

「…だね」

って、彼は苦笑い。

なんだそれ。

なんだか癪に障る。

「じゃあ私は宏光にする」

ヒロだのミツだの分割して呼ばれていたのなら、私はフルで宏光で呼んであげる。

あなたに乗ったり乗られたりしてきた今までの人と、私を一括りにしてほしくないから。

だって私は今日から、あなたの特別な人になったんだから。








「いいね、宏光呼び
なんか新鮮かも」

彼はまんざらでもなさそうな顔をして、私の背中を撫で始める。

「これから大変だと思うけど、大丈夫？」

その手のひらはゆっくり私の背中を往復するだけなのに、その手のひらからいろんな感情が伝わってきた。

大事にするよ、心配してるよ的な、彼の感情がいろいろと。

「…大丈夫」

大丈夫だと思う。

彼のことはまだ信用ならない部分はあるけど、妊娠がわかってからの彼の行動に揺るぎがないことに、私は密かに感心していたから。

今日は婚姻届けを提出したあと、母子手帳ももらってきた。

母子手帳の表紙に、意外に達筆な彼は＜北山A＞と私の名前を書いてくれた。

中のページの父親欄に北山宏光と書いた時の、凛々しい横顔もよかった。

私はだんだん彼に心を許していってるんだなって、新婚初日の夜に、満月の光を浴びながらしみじみと感じていた。









だけど翌朝から、現実が訪れてしまう。

私は出社後、玲の元パワハラ上司に妊娠と結婚の報告をしたんだけど、

「俺はもう来月から異動だから、主任に伝えてくれる？」

って、死んだ目で言われて、主任に伝えた結果。

…あからさまに迷惑そうな顔をされてしまった。

まあね、ある程度は覚悟してたよ。

これが働く女子の現実だ。

「で、いつまで働けるの？
辞めるんだら、早めに知らせてくれる？」

そんな冷たい言葉を浴びせられた私は、もう何も言えなくなってしまった。

事情を知った他の社員は、喜んでくれる人もいたけど、冷たい視線を送ってくる人もいたりで。

本当に、現実って世知辛い。

特にうちの部署は忙しいから、私が抜けることで迷惑をかけることになるのはわかってるけど。

たまたま通りかかった給湯室の中から、

「できちゃった婚だって
意外とだらしないんだね」

なんて話してる社員の声が聞こえてきて、私はますますどん底に突き落とされてしまった。

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