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初めてかもしれない、こんな風に誰かに本音を言えたのは。

だって誰もが俺を腫物にでも触れるかのような態度で接してくるから、本当の気持ちを言える人がいなかっただけ。

病院の先生やカウンセラーには少しだけ話せたけど、事務的な応答をするだけで、話す気力も失せた。

なのに、この子を目の前にすると、話してみたくなった。

この子は全然、俺に心すら開いてくれないし、むしろ避けられてる感じなのに。









「そうなの?」

彼女がそんな俺の本音に反応してくれたのがうれしくて、また要らないことを口にしてしまった。

「俺が笑ってたら、みんなが安心するから
それならずっと笑っていようって思って」

「昔のことは、全然思い出せない?」

そんな質問が来たのもうれしくて、珍しく俺は饒舌になっていく。

「思い出せない
でも…、たまに懐かしいって思える場所があって」

「どこ?」

「自分の住んでたマンション
今も同じマンションに住んでて、部屋は違うんだけど
外観や部屋の中に入った時に、なんか懐かしいって思えた」

「他には?」

何故か彼女は食い気味でそんな質問をしてくるから、俺も調子に乗っていろいろしゃべり過ぎた。

だけどその質問には、うまく答えられなかった。

だってあの子の目が、少しだけ期待に満ちていたから。

「今のところ、まだない」

そう答えたらやっぱり、あの子は悲しそうに目を伏せてしまうから、彼の胸はチリチリと痛みだした。









「聞いていい?」

あの子があんまり儚げに見えたから、今度は俺が質問してみる。

たぶん、彼女に一番聞きたかったこと。

「昔の俺って、どんなだった?」

あの子は少し悩んでから、

「どうしてそんなことを知りたいの?」

そう返してきた。

…確かに。

そう納得しながらも、まるで心臓が抉られるみたいに悲しかった。

確かに、それを知って俺はどうするんだろ。

過去の自分と同じように振舞おうとか、思っちゃってるわけ?

だから、もう誤魔化しちゃおうとしてたのに、あの子は勝手に話し始める。

「昔の裕太は、愛想なんて微塵もなかったよ
笑顔振りまいて場を和ませるとか、考えられないくらい」









まあ…、なんとなくそんな感じだとは思ってたけど。

だけど、あの子の話す過去の自分がどんな感じだったのか、知りたくてたまんなくなってきた。

「それで?」

だって、あの子の唇から「裕太」って名前が出てくるだけで、わけもなく胸が疼いたから。

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りたわかめ(プロフ) - ななさん» 読んでいただいてありがとうございます。地味に更新しますのでよろしくお願いいたします (2021年6月15日 22時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - りさん» 長いことお待たせして申し訳ありませんでした。地味に更新させていただきました(/ω\) (2021年6月15日 22時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
なな - これからも楽しみにしてます!忙しいと思いますが、頑張ってください!!!!!!! (2021年6月15日 17時) (レス) id: 098f1a119e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あああ、、尊すぎる、、!!お忙しい中更新ありがとうございます。待ってました、、、!!!!今回も相変わらずギュンギュンさせてもらいました。次も楽しみです! (2020年9月13日 23時) (レス) id: c576fdde02 (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - ちゃんたまさん» 本日、玉森さんの誕生日に更新させていただきました♪引き続き、どうぞよろしくお願いします<(_ _)> (2020年3月17日 2時) (レス) id: 4a0ecf03f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わかめ | 作成日時:2019年11月3日 12時

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