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お風呂から出て、そっと少しだけ脱衣所へ続く引き戸を開けたら、もう彼の姿はなかった。
慌てて着替えて髪を乾かしている途中で、彼が顔を覗かせてくる。
「外、寒いんだけど」
とか言いながら、そのくせ楽しそうな顔をして入ってきた彼は、入り口の籐の椅子に座ってずっとこちらを眺めはじめた。
鏡越しに目が合ったら、大人びた感じで口元だけで微笑みかけてくる。
「髪、乾かしてやろうか」
「…いい」
しばしの沈黙の後、彼が近付いてくるのを鏡越しに見つけて、思わず顔を伏せてしまった。
…どうした？私！
まるで処女みたいな反応をしてしまうのはきっと、さっきからいつもと違うオーラを纏っている彼のせいだ。
背後に立った彼は、手に持ってたドライヤーをそっと奪い取ると、私の髪を乾かし始める。
弱めの風が髪をかき混ぜながら、彼の指が髪の束を掬っていく。
「なんか不思議」
彼は機嫌よさげな鼻にかかった声が、ドライヤーの風に混じって聞こえてくる。
「何が？」
「いつもこの時期って、友達とどこかに旅行に行ってるから
今年の正月はこんな所で好きな子の髪を乾かしてるとか、想像もしてなかった」
それは私もだよ。
まさかあの北山宏光に正月早々髪を乾かしてもらうなんて、誰が予想する？
鏡越しに見える彼の表情は何故だか楽しそうで、鼻歌まで聞こえてくる。
「今年は旅行に行かないの？」
「行かない」
「帰省は？
いつもお正月は、地元の友達と飲み会があるんじゃなかった？」
真剣にそう訊ねてるのに、彼は鼻で笑うだけ。
「今年はいいかな」
「実家に帰らないの？」
「たまに会ってるしね、親とは」
そうなんだ、全然知らなかった。
「帰る？一緒に」
鏡越しに私を見つめていた彼は、目が合うとくしゃりと笑いかけてくる。
「どこへ？」
「俺の実家？」
…ちょっと待って。
それはない、それは無理。
「毎年、地元の友達と飲み会すんだよね、店貸し切って」
その話はどこかで聞いたことがある。
確か家族ぐるみで、年々人数が増えていくっていう、あの飲み会だよね？
「来れば？Aも」
だから簡単にそんなことを言わないでほしい。
私に地元の友達を紹介するとか、どういうことだかわかってる？
もう引き返せないってことなんだよ？
だから私は、その問いかけはドライヤーの音で聞こえてないふりをした。
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りたわかめ(プロフ) - えりさん» ありがとうございます、多分、3ヶ月ぶりくらいに更新した気がします・・・。夏の間は死んでました(T^T) (2020年9月6日 21時) (
レス) id: 4a0ecf03f1 (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - ひろさん» 本日、移行しました！読んで頂けたら嬉しいです(/ω＼*) (2020年9月6日 21時) (レス) id: 4a0ecf03f1 (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - わかめさん、更新ありがとうございました。めちゃくちゃドキドキです。 (2020年9月5日 17時) (レス) id: 8591dd4797 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - 久々の更新楽しみにしてました！！楽しく読ませていただいてます(*´ω｀*) (2020年9月1日 22時) (レス) id: 57f2f46317 (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - moraさん» わざわざ聞かせてみましたwwwいこう！ってwwww (2020年9月1日 22時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りたわかめ
| 作成日時：2020年2月7日 22時
