無敵のスピカ

二番目の女 …りたわかめ… 1 ページ23

私の大好きな人は、かなりあざとい。

やたらとスキンシップは激しいし、付き合ってる一歩手前までのことを平気でしてくるくせに、

私がぐいっと一歩踏み出した途端に、サッと身を引く。

そして、「そんなつもりはなかったんだけど？」みたいな顔をして躱してくる。

本当に小狡くて、あざとい男だ。

可愛らしい顔をして、してくることは本当にどぎつくて、

本当なら関わってはいけない人なんだけど。

緩急つけて弄られ倒した結果、私はもう、彼のことしか考えられない人間になってしまった。

全部、あの人のせいだ。









「A、今日も０時まで？」

バックルームの廊下で彼とすれ違う。

「うん、北山さんは？」

「俺も同じ」

それだけ言うと、そっけなく横を通り過ぎるくせに、

「A」

背中越しに私の名前を呼ぶと、振り返った私に何かを投げて寄越してきた。

「やるわ、それ」

手のひらに乗ったそれは、百貨店で売ってるような小さな箱入りの高そうなお菓子。

「どうしたの？これ」

「知らない
友達にもらったけど俺、そういうの食わないから」

それだけ言って、あっさり背中を向けてロッカールームに入って行く彼を、

私はなんともいえない気持ちで見送っていた。

何が友達だよ。

絶対に女子じゃん。

これは女子に貰ったものを私にわざわざ見せつけてくる牽制プレイなのか、それとも本当に何も考えていないのか。

多分…、いやきっと前者の方だ。









１つ年上の彼は、カラオケボックスのバイト先の先輩であり、

違う大学に通っているせいで、彼に会えるのはこのバイトの時間しかない。

彼の入りそうなシフトをプロファイリングして予測し、なるべく同じ時間帯に入れるようにシフトを申請したり。

こういうたゆまぬ努力の結果、週に３回は彼と同じ時間を過ごすことができる。

バイト同士仲がいいせいで、バイト終わりに遊びに行ったりもするし。

そして今夜も、バイト終わりにファミレスで深夜の夕食をとる。

メンバーは私達の他にあと２人いるけど、私にとってはモブに過ぎない。

いつも彼はテーブル席の奥に私を座らせると、隣に座ってくる。

…これだけでもう、かなり思わせぶりだと思うんだ。

席を立つにも彼を通さないと行けないわけだし、距離を詰められたらもう逃げ場すらなくなる。

私の前にあるメニュー表を、身を乗り出して取る仕草とか、

いちいちカッコいいから、始末に負えない。

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