花晨月夕

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あんまりサラリと言われたもんだから、正直聞き流していた。

「Aが好きなんだけど」

何？その挑戦的な言い方。

それって愛の告白？

まるで私に戦いでも挑んでるかのような雰囲気じゃん。

だけど私は、意外にも動揺していた。

まさか、彼がこんなにストレートに言ってくるなんて予想もしてなかったから。








「何か言ってよ」

この状態でくすくす笑いながら、おでこをコツンと当ててくるあたり、彼には余裕がある。

きっと私も同じ気持ちだと気付いてるんだろうな。

でも知ってる？

私は、北山くんが思ってるより相当に頑固なんだよ。

簡単に折れたりしないし、流されたりしない。

初志貫徹。

全てを投げ打って私を欲しがるまで、私は彼のものにはならない。

「Aちゃんはどう思ってんの？俺のこと」

やっぱり彼の口調にはまだ余裕がある。

だけど天邪鬼な私は、この彼の余裕を壊したくて仕方なくなった。

だから、何も答えない作戦。

ひたすら無言を貫く。

簡単に私が手に入ると思うなよ？

…嘘。

簡単に手に入れた北山くんなんか、すぐにどっかへ行っちゃいそうで、

だからこそ、そんなお手軽な関係に成り下がりたくないんだ。









「やっぱ、俺の仕事が嫌？
付き合ったら、Aには辛い思いばかりさせることになるだろうし」

そんなの、私はどうでもいいんだよ。

北山くんが私にプロ彼女になれって言うんなら、私は喜んで日陰の女にだってなれる。

だって私は、ものすごい数の女の子が本気で欲しがる北山宏光という人間を、独り占めすることができるわけなんだから。

だからこそ彼には、生半可な気持ちで「好き」とか「付き合おう」とか言ってほしくないだけ。

「でも、俺はAが好きなんだけど」

それでも彼は、堂々と言ってのける。

私が無言を貫いていることで、少しは彼が委縮すると思ってたのに。









「宏光のことは好き
たぶん、恋愛対象として
でも付き合わない」

これ以上攻められたら、私も陥落してしまいそうだから。

仕方なくそう教えてあげた。

「だから何で？」

「今まで宏光は、いつも女の子にそういう攻め方をして堕としてきた？」

「どういう意味？」

「思わせぶりなことを言って、相手から告白させるような」

そう言ったら、彼はふっと鼻で笑う。

図星を突かれた彼のそれは、きっと苦笑い。

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