花晨月夕

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｢霞さんが言ってた
このまま頑張って居続ければ、大学教員の道もあるんじゃないかって｣

｢そんな夢を見て、何年も大学に居続ける人もいるけど、生活が安定してないから大変だと思う｣

｢夢より安定をとるわけ？Aちゃんは｣

だから、そんな厳しい目をして見ないでよ。

私は北山くんみたいに、純粋ではいられないんだ。









私が何も答えないからか、彼はまた、伏し目がちにぽつぽつと語りはじめる。

｢Aちゃんの人生なんだし、Aちゃんが自分で決めるべきだってのはわかってる｣

酔ったのか、ほんのりと頬を赤くしている彼は、こういう時、なかなか面倒くさい。

やたらと熱くなるし、自分語りは始まるし、説教だってされてしまう。

だけど私には、彼のこの面倒くささも愛しいの塊で。

なのに今夜は、いつもとは逆方向へ彼のテンションは向かっていく。

｢Aちゃんが、安定を求めて元彼の近くに就職したとするじゃん？
絶対、元彼はAちゃんにコンタクトを取ってくると思う
一生懸命アプローチするだろうし、Aちゃんに尽くすんじゃない？
そうなったら多分Aちゃんは、簡単に元彼に流されてしまいそうだから｣

そう言って彼は、ちょっと寂しげに私を真っ直ぐ見据えてくる。

｢そんなことないよ
もう、元に戻ることはないって｣

｢そうかな
だってAちゃん、すぐ流されんじゃん｣

｢大丈夫だって｣

｢実際、今だって
こんな風に、俺との曖昧な関係を強引に押し付けられて、受け入れちゃってんじゃん｣

その目はやっぱり寂しそうで、胸がぎゅーっと締め付けられる。

今すぐその可愛らしい頭ごと、抱えるようにして抱きしめてあげたくなるくらい。

…って今、説教されてる真っ最中なのに。









｢たまに思う
Aちゃんの一番いい時期を、俺が無駄に奪っちゃってんじゃないのかなって｣

そんなこと思いながら、私と会ってたんだ。

そんなに私との関係が重荷なら、やめちゃえばいいのに。

本当に可愛い人だな。

｢俺なんかといても、何の約束もしてあげられないのに｣

｢約束？｣

｢将来を見据えた約束
俺はAちゃんに、何の約束もしてあげられないから｣

…ああ、もう、本当にこの人は。

酔って弱音を吐く彼が、こんなに愛しく思えるなんて

だから私は、願望を実行に移すことにした。

隣にある彼の頭を、そのまま包み込むように抱き寄せて、

｢…可愛い｣

そう、一人言みたいに呟いた。

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