花朝月夕

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『俺が行かなくても、来ないんだ？』

「もう行かない」

『何で？』

それを私に言えって？

もう思い出したくもないくらい、恥ずかしい過去になってるのに。

『俺のことであれこれ言われて、泣きそうな顔して逃げ帰っちゃったこと？』

…ほら、わかってて聞いてたんだ。

本当に彼は底意地が悪い。









「何でみんな私を誘うのかな
私が参加しても、気を遣うだけなのに」

『罪滅ぼししたいだけなんじゃない？
Aちゃんに失礼なことしちゃったから、挽回したいんだと思うよ』

「私がそれを望んでなくても？」

『人助けだと思って行ってあげたら？
多分、全力で盛り上げてくれると思うけど』

「そういうの苦手なんだけど」

『まあ…、無理にとは言わないけどね
俺がAちゃんとまた、外で会いたかっただけだし」

だから…、何でそんな思わせぶりなことを言うかな。

こんなことを言っておいて、「恋愛感情はない」とか「人として気になるだけ」とか、言い訳するんでしょ？

だから私は、口答えしてみることにした。

「北山さんって、どうして私にこだわるの？
人馴れしてない、Ｔ大出の石頭女が面白いから？」

半分、八つ当たりだよ。

これ以上、思わせぶりなことを言われて翻弄されたくないから。









今、彼はどんな顔してるんだろう。

チラリと車道の奥に目をやれば、彼もこちらを見ていて、

下手くそな私は不自然に顔を伏せた。

『Aちゃんが逃げるからじゃない？
逃げたら追いたくなんだろ、普通』

ぼそぼそと低音でそう言っては、私をますます悩ませる。

暗いのと遠くにいるせいで、彼の表情はよく見えないけど、

彼の姿を見てるだけで、彼の感情はなんとなくわかる。

たぶん今、彼は拗ねてるはず。

少し背を丸めてスマホを耳に当てながら、地面に目線を落として歩いているその姿は、可愛いの何物でもなかった。

そこに立ってるだけで、歩いてるだけで、こんなに愛しく思えるのは何でなんだろう。









『まあ、別に来なくてもいいよ、Aちゃんは』

彼は体勢を立て直して、そんな強がりを言ってくる。

『俺はもう「Aちゃんの連絡先」っていう最強のツールを手に入れたから
話がしたくなったらＬＩＮＥするし、電話だってできるし』

勝ち誇ったように、そんなこと言ってきた北山くんは、

『暇な時、電話していい？』

今度は甘えたようなそれでいてＳな言い方で、そう命じてきた。

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