花朝月夕

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歩きながら、ずっと北山くんの番号を眺めてた。

そのままLINEを開いたら、

勝手に電話番号で登録されてたらしき、知らないアイコンがリストに入っていた。

北山くんかな…？

そう考えてるうちに、いきなりLINE通話がかかってきて、

『Aちゃん？』

って、私の名前を呼ぶ、彼の声が聞こえてきた。

「北山さん？」

『Aちゃんのこのアイコン何？』

…アイコン？

今、何にしてたっけ！？

私がドルヲタなことは周りにはひた隠しにしてるから、北山くんのアイコンではないことは確かだけど。

『白い花みたいなやつ』

ああ、それか。

まともなアイコンでよかった。

「スノードロップっていう被子植物です
ヒガンバナ科で学名はガランサス
和名では待雪草っていうんですけど、大学の卒論はそのスノードロップの染色体についての研究をしたので」

私なりにわかりやすく教えたつもりだったんだけど、彼は呆気にとられたみたいで返事もしてくれない。









『なんか…、本当にＴ大生って感じ』

彼は電話の向こうでクスクスと笑う。

途端、後ろの方から救急車のサイレンが聞こえてきて、あっという間に通り過ぎて行った。

…あれ？

電話の向こうでも、同じサイレンの音が聞こえてきたんだけど。

「…北山さん、今どこにいます？」

そう聞いてるのに、

『内緒』

とかって、彼は教えてはくれない。

キョロキョロ辺りを見回してみたけど、誰もいなくて。

でもふと、大きな道路を挟んだ反対側の道に、電話をしながら歩いている彼の姿を発見してしまった。









『あ、見つかっちゃった？』

くすくす笑ってる彼の声。

『心配だから、Aちゃんが家に帰るまで、こうして電話しながら送ってく』

「だめですって！
遠いですから」

『あれ？
さっきはすぐ近くとか言ってなかったっけ？』

…そうだった。

こうして私の嘘は、ひとつひとつ見破られていく。

『Aちゃんはけっこう嘘つきだよね
でもそれは、俺のためについてくれた嘘なんだって、自惚れてていい？』

なんて優しい解釈なんだろう。

確かに彼に心配をかけないためについた嘘だけど、その他の嘘はただ自分のためだけについた嘘なのに。

『でも、俺もAちゃんに嘘ついてたことがある
今日Ｔ大で会ったのは、半分偶然で、半分必然だったんだよね』

どういうこと？

意味がわかんないんだけど！

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