涙に欲情 (g0) ページ13
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雨が降る夜。長く付き合っていた恋人に、こっ酷く振られた。私と付き合っていても、つまらない、だから浮気をしたって。濁さず言われた言葉に呆然として、立ち尽くすしかできなくて。食事をしていたお店をようやく出て、駅まで来れたけれど、我慢していた涙は止まらなくなった。
涙を隠したいのに、とめどなく流れるから、隠しきれない。通りすがるひとが、ちらっと私を見ては、知らないふりをして通り過ぎて行った。
だめだ、落ち着かなきゃ。そう思って、隅に移動する。深呼吸を繰り返して、繰り返すのだけれど、ぽつりぽつりと頬に伝う涙。
｢葵、さん？｣
俯いていたら、影が私を覆った。控えめな声に驚いて顔を上げると、そこにはよく知った顔がいて。マスクにキャップを被り、身体が大きくなった彼は、驚いた表情と慌てた素振りを見せた。
｢え、葵さん、なんで泣いて、｣
｢…っちが、大丈夫だから｣
｢泣いてますよね、バレバレです｣
｢泣いて、ないよ｣
｢……彼氏さんと、何かありました？｣
ぎく、と分かりやすく身体を揺らしてしまった。尚輝くんは、やっぱりと言いたげに、小さなため息を吐く。
｢…別れたんですか？｣
｢ふ、られました｣
｢勿体ないことしますね、元彼さん｣
｢……｣
｢近くに車停めてあるから、送ります｣
そう言って、私の手を取った。ああ、馬鹿だなあ。最近注目され始めた、期待の選手。そんなひとが手なんて繋いで、どこかで見られていたらどうするんだ。そんなことをぼんやり考えながらも、繋がれた手を解く力はなくて。
尚輝くんと出会ったのは、まだ彼が学生だったとき。私は小さな出版社に務めていて、取材をさせてもらったことが始まり。ドラフトに選ばれ、巨人に入団してからも、快く取材に応じてくれる尚輝くん。私を見つけて駆け寄ってきてくれる、そんな健気な若者なのだ。
そんないい子だから、知り合いの女がこんな人前で泣いていたら、ほっとけないんだろうな。
尚輝くんの車に乗せてもらう。まだめそめそ泣く私を、尚輝くんはじっと見つめていた。そして、意を決したように、
｢葵さん、｣
｢なに？｣
｢……送り狼しても、いいですか？｣
｢え？｣
｢俺、今をチャンスだと思ってます｣
そう、口角を上げた。思っていたより男らしい彼に驚いて、固まってしまったけれど。尚輝くんは楽しそうに笑って、車のエンジンをかけた。
＿fin
打撃はもちろん、守備がだいすき。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは＊コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います！ (2019年11月7日 20時) (
レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます！ (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして＊こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います！コメントありがとうございました＊ (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています！ (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます＊気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです＊ (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：aoi | 作成日時：2019年2月18日 23時
