発症前 ページ1
何かに対して、誰かに対してここまで夢中になったのはきっと初めてだ。
そして、誰かにここまで想ってもらうのも、きっと、初めてだ。
言葉を投げれば返ってくる。そんな当たり前なことも
俺にだけ見せる顔がある。手を伸ばせばすぐに触れることができる。そんな特別なことも
俺にとっては全部くすぐったくて、心地よくて、嬉しくて、幸せなんだ。
君といるだけでこんなにも幸福感に満たされている。
それを君は理解しているのだろうか。
そして、君も幸せを感じてくれているのだろうか。
俺と、同じように。
「…今度の週末は、友達と遠出するの?」
デートで寄ったカフェ。
珈琲の香りと、甘いような香りが入り混じるこの場所は、嫌いではない。
君はケーキを飲みこむと、俺の反応が薄かったせいか表情を不安そうに変え、駄目かどうかを問う。
(…)
「まさか、駄目だなんて言わないよ」
「楽しんでおいで」
「……あ、でも夜は遅くならないように。気を付けてね」
彼女の表情から不安を消そうと、優しく言葉をかける。
分かりやすくも表情を明るくした君は、分かったと頷いた。
(…友達との時間も、きっと大事だろうし)
しかし、心の奥底では寂しいような残念なような…楽しんでおいで、なんて言いたくない。そんな本音がちらついた。
喉を這いあがろうとする本音の言葉を流し込むように、珈琲を一口飲みこむ。
味はなんとなく程度にしか分からない。
そんな俺の心境も露知らず、君はお土産を買ってくると嬉々として言った。
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
「……何がいいか…か…」
「うーん…何でもいいよ。君が選んでくれたものなら、何でも」
何でもいいが一番困る。そう言いながらも笑っている君が、何がいいかなと考え出す。
まだ遠出したわけでも、ましてやお店の前に行ったわけでもないのに、君はとても楽しそうだ。
その後も色々話していると、彼女がケーキを食べ終える。
「ケーキ、美味しかった?」
「…なんて、聞くまでもなかったかな…」
「すごく、幸せそうな顔」
「ふふ、そんなに気に入ったのなら、また来ようか」
嬉しそうに頷く彼女の幸せが伝わってきて、思わず俺も頬を緩ませた。
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年11月14日 18時