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(今この時間まで、怪我や体調不良の様子もなし)
安堵の溜息をつくと同時に、心の中で呟く。
三時間目が終わった休み時間。
腹の奥に空腹感を感じ始める時間ではあったものの、今日はそれを気にすることはなかった。
「またとかいうな。オレはお前が無茶してないかどうか見に来てるんだから」
教室の前の廊下、お前は大袈裟だと溜息交じりに言いながら苦笑いをする。
薄らと残っている傷跡が、頬の上で歪む。
「…ッ!!」
「……大袈裟、なんかじゃ…ないだろ……っ」
その言葉が、表情が、傷痕がオレの不安な心を刺激した。
「まだ調子は万全じゃないんだ、何かあってもおかしくない」
微かな刺激は不安を苛立ちに変え、思わず説教のような勢いで、彼女にあたってしまう。
「それに、こんな人の多い所じゃ何処で怪我するかも分からない、菌をもらって風邪ひくかもわからない」
「ちょっとの無理や我慢のせいでまた大きな事に巻き込まれる可能性だってある」
「オレはお前のことが心配なんだよ…!!」
「もう、オレは…っ!!!」
(…少しでも、傷つけたくない)
(……お前に、何かあるなんて、考えたくない)
煽られた感情は言葉を吐き終えるとおさまりを見せる。
まわりの生徒の目は、ほとんどがこちらに向けられていた。
その中で、お前が静かに、ごめんと謝る。
「ちが、オレは別に、謝ってほしいわけじゃ…」
「……ごめん」
違う。
お前にそんな顔させたいつもりじゃないんだ。
謝罪させたいわけでも、責めたわけでもないんだ。
(オレは、ただ、ただ…)
廊下や教室にざわめきが戻り始めたころ、オレと彼女の間には妙な沈黙が流れていく。
数秒の沈黙を破ったのはお前で、また、心配かけてごめんと、謝った。
「…オレこそ、なんか…束縛みたいなのして、悪い…」
「……ちょっと、心配性すぎっつーか…過保護すぎっつーか…」
「ほんと、悪い。考えすぎてた」
笑みを向けてみたけれど、自分でも上手に笑えていないことには気づいていた。
お前も同様に、口角だけを上げているものの、瞳はまだ何処か沈んで見える。
やってしまった。
そう後悔するのとは裏腹に、
(…本当に、心配なんだよ)
苛立ちが焦りと不安に戻って、胸中に留まっていた。
けれどそれを吐き出すわけにもいかず、違う話題をと思考をめぐらせる。
ごちゃごちゃになった頭が、わずかな痛みを訴えた。
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年11月14日 18時