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「わ、悪い、ぼうっとしてた…」
「いや、別に元気ないとかそういうんじゃねえって!」
「あー…ほら、昨日夜更かししちゃってさ」


最近買ったゲームをしてたら遅くなっちゃって。
彼女の表情から心配の色を消そうと、きっとオレらしいであろう嘘を吐き出す。
それで納得してくれたのか、お前は授業中に寝ないようにとだけ言って笑った。


「ん……んー、昼飯あとは、寝ないとは言い切れないかな…」
「ははっ、冗談だって。寝るわけないだろ」
「お前こそ、久々の学校だからって張り切り過ぎんなよ?」
「それで失敗したり、また怪我でもしたら、…ぁ………」


言葉の続きが漏れる前に、腹の底から何かが素早く喉元を駆け上がってきた。
それを抑えようと、すぐに口を閉じる。


(また、怪我…?)

「……っ」


足を止めたオレにつられて、お前も足を止める。
数秒間を開けて、小さな声でオレの名前を呼んだ。


「…や゛…なん…何でもない」


恐怖に似た感情が腹にたまっている。
それだけでなく、喉にもへばりついていて、息が、苦しい。


(そんなの、駄目だろ)
(……冗談で言ったつもりだったけど…本当に、怪我とかしないよな…?)
(……)
(………不安…だな)


怪我一つで大袈裟な。
そう思ったのも、そう思われると思ったのも一瞬で、苦しさに溺れるように思考をめぐらせた。

なら、どうするか。と。

しかし、その考えの途中、またお前がオレの名前を呼んだ。
考えていたものは、一瞬にして消え去った。


「…悪い、もう大丈夫」
「いや、本当に大丈夫だから、平気」
「……心配かけて、悪いな」


無理やりに大丈夫だと言い張って、お前の言葉を遮る。
遮られたせいか、お前はそれ以上追及はせず、何かあったら言ってと優しく言葉をかけた。


「おーう。そうする」


いつもの調子を戻しつつ返事を返すと、馬鹿は風邪ひかないから平気かも、なんてお前は冗談めかしながら言う。
それが、いつもみたいに悪戯に言っているわけではなく、雰囲気を明るくするための言葉だと、すぐに気付いた。


「なら、お前も風邪ひかないな。良かったじゃん」
「体調管理がしっかりしてる、ねえ…」
「いやぁ、どう考えても馬鹿なせいだって」


二人して馬鹿なことを言い合う。
この時間が、すごく幸せなんだと改めて実感する。
楽しげに細められるお前の目は、キラキラしてて、とても綺麗だと思った。
それをもっと見たい。

それを守りたい。

心の底から、そう思った。

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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年11月14日 18時

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